漢方薬の形

漢方薬、というのは、もともとは、植物の根っこや、木の樹皮、あるいは植物の実、ないし葉などを採取してきて、乾燥させたもの…これらを「生薬」と呼ぶのですが…を煮出して、内服するものでした。
もちろん、生薬を粉にしてそのまま飲む、というものもありましたが…あまり数は多くありません。
一日一回、煮出すのですが、たとえば600mLくらいの水に生薬をブレンドしたものを入れて、水の量が半分になるくらいに煮詰める、というようなことが古い本には書いてあります(こういうかたちで煎じるので「煎じ薬」と呼んでいます)。
かなっけ…とはもうあまり言わないのでしょうか…金属の鍋を使うと、その金属の影響がでることがある、と言われており、「土瓶」あるいは「ホーローの鍋」みたいなものをお薦めされたりしていたのでした。
これを毎日やる、って結構めんどうくさいわけです。
なので、最近は自動で煎じてくれる鍋とヒーターのセットなども販売されています。 「自動煎じ器」と検索かけていただくと、他にもいろいろと出てきます。
他には、丸薬、というのもありました。生薬の粉を、ハチミツなどで練って丸めるのです。これはハチミツをかなり煮詰めないと、きちんと固まりになりません。ずいぶんと熱いところで、なかなか大変な作業だったようです(八味地黄丸とか、桂枝茯苓丸などが丸薬としては有名です。今はどちらも「料」ということで、煎じ薬にしていることが多いのかもしれません)。
丸薬のほうが、じんわりとゆっくり効いてくる、ということになっていたはずです。
漢方をもらっているけれど、そんな煎じたことなんてない、っておっしゃる方が、今はとても多くなっていると思います。それは、「エキス製剤」というものができて、保険に収載されたから、です。
エキス製剤って、一体なんなのか?って疑問に思われることはもう、無いのかも知れませんが、昔は「煎じた液体を、フリーズドライするのだ」という説明を一生懸命なさっていました。いわば「インスタントコーヒーみたいなものだ」という説明でした。
インスタントコーヒーを粉の状態のままで飲むひと、あまりいらっしゃらないと思います。
漢方を古くからやっておられる先生は「だから、漢方薬も、お湯で溶いて飲むのだ」とおっしゃいます。面倒くさいわけです。
まあ、粉のままで内服していただいて良いのではないかと思っています。
しかし、粉はそのままで飲むと、むせたり、イガイガしたり、苦かったり、大変なことがあります。
ということで、漢方薬(エキス)をカプセルにしたり、錠剤にしたり、ということが一時期、されました。今でも、薬局で購入できる漢方には、錠剤タイプのものがたくさんあります。
一方で、医療用の漢方薬エキスは、錠剤のものが、それほど多くありません。これは、認可を取得したときの形から、剤形の変更ができないままで、今に至っている、という事情があるのだそうです。
漢方薬の、粉の味が苦手、という方でも、錠剤やカプセルのものであれば、内服していただける、ということもございます。残念ながら、それほど種類が多くありませんので、診療として、きめ細かい処方の調整が難しい、ということと、それから、一日に飲む錠剤の数が多いものだと27錠(!)と、錠剤を飲むのも面倒くさい話があるのですが…。
粉を飲んでいただくのが良いのか、錠剤をたくさん飲んでいただくのが良いのか、あたりは、とても悩ましいところです。
以前わたしが働いていたところは、「採用医薬品」というもののリストがあり、その中で処方を選ばなければなりませんでしたので、この人にはこの漢方の錠剤を…というのが、とても不自由したのですが、今は処方箋をお出しするときにそうした制限はありませんので、のびのびと診療しております。
とはいえ、薬局に在庫があるかどうか、というところも気にしなければならない話で、在庫がなかったり、数が足りなかったりすることも、ものと場合によって出てきます。お薬が手元に届くまで、しばらくお待たせすることもありますが、ご了承くださいませ。