漢方薬のオネダンの話
「漢方ってお高いんでしょう?」っていうようなことを、時々、言われます。
「医者の薬礼と高嶺の花は…」というざれ歌も、江戸時代にはあったそうで、なかなか支払いが大変とか、そういうことだったようですが。
ありがたいことに、医療用漢方薬エキス製剤、と呼ばれるものが、およそ140種類くらいありますが、これらは、すべて保険が効きます。
なので、健康保険の3割、ないし2割、あるいは1割の部分をご負担いただいたら、使っていただけることになっています。
一方で、いわゆる漢方薬局というのが街中にはあります。ここでは、健康相談をして、OTC医薬品としての漢方薬エキス製剤を販売したりすることもされています。こちらは、健康保険の対象にはなっていません(セルフメディケーションとなりますので、確定申告の時に、「医療費」として計上していただくことは可能だったはずです)。
薬局で購入していただいている漢方製剤と、処方箋でお出しする漢方製剤と、違いはあるの?っていう部分も気になるところでしょう。
いくつかの違いがあります。
ひとつは、最近「満量処方」という表示がある葛根湯エキス剤を、薬局でご覧になった方もあるかと思いますが、一般的には医療用エキス製剤の、エキス量に比べて、OTCの場合は、だいたい「半分」の量しか入っていない、ということがしばしばあります。これは、健康被害が出にくくするように、という配慮でなされているものがほとんどです。最近は、医療用のものと同じ(つまり「満量処方」です)、ということをうたって販売されているものも増えて来ていますので、薬局で購入されるときには、注意してご覧ください。
もうひとつ。
薬局で販売されている漢方エキス剤の全てが、医療用として取り扱われているわけではありません。いろいろな事情があったのだろうと思います。たとえば、比較的有名な処方で言うと、風邪の時に用いる「銀翹散」というエキス製剤が、薬局では購入できるのですが、これは、医療用のエキス製剤がありません。あるいは「芎帰調血飲第一加減」という、産後の体調不良などに用いる処方も、医療用(保険が適用されるエキス製剤)はありません(医療用としては「芎帰調血飲」というエキス剤があり、産後のトラブルや体力低下などに用いられます)。
そのほか、「霊芝」「冬虫夏草」「熊胆」「牛黄」「鹿茸」など、高価な生薬を用いた処方が、漢方薬局では販売されていますが(たとえば「救心Ⓡ」「樋屋奇応丸」などもそういった例としてに挙げられるだろうと思います)、保険で処方ができる形にはなっていません。
このあたり、けっこうややこしい話ではあるのですが、医療用エキス剤で、どうしても対処できない場合や、保険外の生薬などは、自費でご購入いただいている…という施設もあったりするようです(もちろん、強制ではありません。自費での取り扱い分があることをご説明して、自費でのものにするか、あるいは、それそのものとは多少異なる、類似のものとするか、は相談になります)。
さて、話題を医療用エキス製剤に戻します。気になるオネダンの話ですが、医療用のエキス剤は、すべて、「薬価」がつけられています。この薬価が改定のたびに下げられているようなところもあり、医療用のエキス剤では、「作って販売するたびに赤字」というものも出てきているようです。まして、中国が経済発展してきたこともあり、原材料の生薬は値上がりしていますので…。
薬価は漢方エキス顆粒だと、1gあたり、の価格が公表されています。
これに1日に使用する量と、処方された日数をかけていただくと、だいたいの価格になります(葛根湯で1日あたり100円くらい。高い処方…グラム単価が高いのに加えて、1日の使用量が多い、などの場合があります…との差は4倍くらいはありそうですので、400−500円になるものもあります…この、およそ3割が「自己負担」の金額になる計算です)。
薬局で処方されると、これに調剤技術料や薬学管理料が上乗せされる形になりますので、もう少し負担額が増えます(この部分が3割負担で、およそ700円くらいになるでしょうか…?)が、2000円ないし3000円くらいで、処方を受け取っていただけることが多いと思っていただいて良いのではないかと思います。
医療用の漢方エキスは、原材料や製造コストにかかる物価上昇に比べて、薬価をながいこと据え置きされてきた(場合によっては薬価の引き下げもあったりしたかもしれません)という経緯があり、すでに製薬企業としては、作るほどに赤字になっている品目も出てきているそうです。今後、生薬の市場価格はどんどん上昇する一方ですので、安定した供給のためには、本来ならもう少し薬価をあげていただく必要があるのですが…なかなかこのあたりがとても難しいようです。