男性医師が産婦人科医であること

女性の社会進出を受けて、医師の世界もずいぶんと女性が増えてきました。特に産婦人科などは、「女性の診療は女性に」というかけ声があったのか、若手医師の中では女性医師の割合が増えてきています。
一昔前…どころではない、わたしが学生の時分には、街中に「産婦人科、女医」って書いてある看板がまだ残っていました。女性医師じたいが珍しかった時代に看板をかけられたのだと思います。
女性医師にかかりたい、というニーズもけっこうありました。「女性の先生を希望します」という要望も、勤務医をしている時にしばしば見かけました。当時、女性の常勤医も複数在籍していた施設でしたから、なるべく要望に応えて…という形で対応していたように思います。男性にはわからないことだから…と面と向かって言われたことはありませんが、同性の方が相談しやすいとお考えになる方も多いのかもしれません。
開業してからは、うちのクリニックはわたしひとりが医師ですので、「女性の先生を…」というご要望には対応できません。ウェブサイトにも男性医師であることが分かるように書いてありますので、さすがに、わたしのところで「女性の医師の診察を希望します」という方はいらっしゃらないと思います。個別には、性別の問題じゃないよねえ…って話になっていますが、全般的な話をすると、産婦人科関係の話題であれば、女性の方が良いのではないか?という声が、時々聞こえてきます。極端な物言いをすると、昨今のセクハラ関連の問題が年々厳しくなってきている様相ですから、セクハラの可能性のあること…つまり女性の身体に関わることはすべて、女性の専門家が対処するべきではないか、という主張をされる方もいらっしゃったりします。現実的には、そこまで原理主義的にはなっていませんけれど。
先日、府民公開講座で、同門の男性の先生が月経前症候群(PMS)のことについてお話されたのですが、その時に、似たような形の質問が上がっていました。「女性にとっても理解しがたい症状ですが、男性の先生が診てくださるのは…?」というようなものだったと思います。
司会をされていたのは京都府立医科大学の産婦人科教授で、こちらも男性の先生でしたが、同門の先生と、府立医科大学の教授と、いずれも「むしろ女性の先生の方が(診察室での言い方や内容が)厳しいと言われる。男性の先生の方が優しい」というようなお返事をなさっていたのが印象的でした。
性差の話はしばしば取り上げられては「性差よりも個人差が大きい」という結論に達する、ということが繰り返されています。「経験したことが無いのに、その専門を言うのはおかしい」という主張も、理屈としてはわかりますが、経験したことだけが大事なわけでもありません。むしろ、個人として経験したことが偏っているために、かえって客観的で適切な対応ができなくなることだってあるように思われます。主体として経験することと、援助者として横でそれに関わることの違い、というものもあります。
わたしの経験からの話をさせて頂くと、「女性の先生を希望します」という方と、受診される施設の事情によっては、かえって「相性の悪い」先生にあたる、ということだってある、と思っています。受診される事情にもよりますが、受診されるときの優先されるべき物事はなにか、ということもしっかり考えて頂きたいと思います。