妬婦

昨日は「嫉妬」という言葉をいろいろと調べていました。

嫉妬してしまうんです

先日「嫉妬してしまうんです」という話を聞く機会がありまして…ふと考えてしまいました。 わたしも嫉妬すること、あります。世の中では、嫉妬はいけないことだ、と言われ…

嫉・妬、どちらの字も「ねたみ」あるいは「そねみ」と読むのだそうで、それが2つ重なっているわけです。
ひたすら深い「ねたみ」「そねみ」なんだなあ…と思ったりします。

さて。

嫉妬、という言葉を調べると、次に調べたのが「ねたみ」「そねみ」です。
先日も書きましたが「ねたみ」という言葉には、

 負けた側が挑んで,もう一度行う勝負。「御―には御勝ちあり」〈とはずがたり•2〉

という意味があるのだそうです。
なんと。これは面白い…。と、今度はそれぞれの漢字を調べてみました。

嫉・妬

いずれもそれほど変わった意味があったわけではないのですが、その中に「妬婦」という熟語が載っていました。
「嫉妬深い女性」「やきもちやきの女性」と書いてあるのですが、ある漢和辞典にはこれに加えて「黄芩のこと」と書いてあるではありませんか!
この黄芩(オウゴン)というのは、漢方に用いる生薬のことです。たまたま、先日「黄連解毒湯」の話題を書きましたが、この黄連解毒湯に用いられる生薬です。

黄連解毒湯と熱のはなし

以前もちょっと「熱」の話をしたことがあります。 ここ最近、ずいぶんと「熱」がこもった状態でいらっしゃる方が増えたように感じますので、あらためて文章を書いてみるこ…

ええええ?嫉妬と黄連解毒湯がこんなところで繋がるとは!って思ってしまいました。

じゃあ、どうして、嫉妬深い女性、っていうのと、オウゴンが関係あるんでしょうか…?

ってことで、ちょっとグーグル先生にお願いをして、調べてみましたが、そもそも「妬婦」という単語の話題がほとんど出てきません。出てくるのは「嫉妬」関係の話題ばかり。
うーん…と思っているところで、古文書を読み解いておられる方のノートが検索にひっかかりました。「妬婦(どふ)」と書いてあります。

https://note.com/mominaina/n/n776aea1a7d0a

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『畫本野山草 [2]』

黄芩わうごん 生しやうず 二秭歸しき川谷せんこく及をよび■句ゑんかうに 一[■は宀+免]

今いま川蜀せんしよく河東かとう陕西けうせい近郡きんぐん皆みな 有あり レ之これ

苗長なへのながさ尺餘しやくよ莖簳麄けうかんそにして 如ごとし レ筋はしの

葉は 從より レ地ち 四面しめん 作なす 二叢生そうせいを 一

類るいす 二紫草しさうに 一高たかさ一尺いつしやく許ばかり

亦また 有あり 二獨莖者どくけうのもの 一葉は細長さいちやう青色せいしよく兩兩りやう/\相對あいたいす

六月ろくぐはつ 開ひらく 二紫花しくはを 一根ね黄きにして 如ごとし 二知母ちもの 一

麄細そさい長たけ四五しご寸すん二月にぐはつ八月はちぐはつ 採とり レ根ねを 暴さらし乾ほし 用もちゆ レ之これを

呉普ごふが本草ほんさうに云いはく 黄芩わうごん又また 名なづく 二印頭ゐんとうと 一一名いちめいは内虗ないきよ

二月にぐはつ 生しやうず 二赤黄せきくはう葉えうを 一兩兩りやう/\四面しめん相値あいあふ

其その莖中くきうち空むなし 或あるひは方圓はうえん高たかさ三さん四尺ししやく

花はな紫紅赤しこうせき 五月ごぐはつ實み黑くろく 根ね黄きなり

二月にぐはつより 至いたつて 二九月くぐはつ 一採とる

一名いちめいは 腐膓ふちやう 一名いちめいは 空膓くうちやう 一名いちめいは 内虗なゐきよ

一名いちめいは 黄文わうぶん 一名いちめいは 經芩けいごん 一名いちめいは 妬婦どふ

味苦あぢにがく大寒だいかん●● 无なし レ毒どく

治ぢす 二骨■こつしやう寒熱かんねつ往来わうらい膓胃ちやうい 不ざるを 一レ利り

治ぢし 二丁瘡てうさうを 一排ひらき レ膿うみを  治ぢす 二乳癰にうよう發背はつせき 一

わうごんさう、(黄芩草)としていろいろ書いてある、一番最後のところに「一名は…云々」と書いてある一番最後に「妬婦」ってあります。よみがなは「どふ」ってなってますね。

じゃあ、どうして黄芩は妬婦というような名前がついたのでしょうか…?
これもちょっと調べてみました。あまりグーグル先生もご存知無いようでしたが…

〈妬婦〉と書いて、黄芩という漢方薬上の植物がある。根の色が外側は黄色、内側は黒いところから、嫉妬ぶかい女の心に似て ...

漢字女偏のルーツとドラマ - 157 ページ

杉本つとむ · 1993 ·

という文章を本の一節から引っ張ってきてくれました。

表面は黄色いが、中は黒い…というあたりを妬婦の心になぞらえた、ようです。
まあ、なんてブラックな表現なんでしょうねえ…。

https://www.nikkankyo.org/seihin/shouyaku/01.htm

こちらには、「アンコ」という表現があります。これのことでしょうか。根の中は腐朽して黒くなるようなことが書いてあります…。
そういえば、上記「一名は…云々」のところにも、腐腸なんていう名前もあります。こういう形で、表面はきれいで、中が腐ったような、というものをつかまえて、「妬婦」と名付けた、ってことなんでしょうかしら。なかなか痛烈な皮肉が込められていると考えて良いのでしょうか。

うっかり踏み込んでしまったところが、かなりドロドロの話で、どうにも引き上げ方を間違えた気がしております。

…ということで、今日は生薬「黄芩(オウゴン)」の話題でした。