歯磨きをしたら

『わにさんどきっはいしゃさんどきっ』五味太郎

昔、高校生の頃だったか、大学生になってからだったか、なにかの国際交流プログラムで、海外の参加者と一緒に合宿をすることがありました。

夜中にお菓子を食べながら、その方に「食べる?」と声をかけたことがあったのですが、返事は「歯を磨き終わったから」というものでした。

「もう一回、歯磨きしたらええやん」と、お菓子に誘ってみたのですが、ニコッと笑顔で、断られた…のだったか、「もう1回…」としっかり言挙げしないまま、口の中でモゴモゴと言っただけだったのか。
そんな思い出をずいぶんと長いこと、抱えていました。

「歯を磨いてしまったから」という言葉の意味が、ひょっとしたら違うのかもしれない、と思うようになったのは、わりと最近のことです。今さら?という話になるのですが。
つまり「晩御飯のあとで、歯を磨いたら、その後は食べ物を口にしない」というルールが、きっと、先にあったのでしょう。
「歯を磨いてしまったから」というのは、そのあとは食べ物を口にしない、というルールの説明だったのかもしれません。

そういえば、仏教のお坊さまは「日没後には食事をしない」という戒律を守っておられる方がありました。村上老師も、実家を訪れる時は、夜はご飯を召し上がらなかった…ように記憶しています(その代わり、と言ってはなんですが、ビールは召し上がっていたような…あれ?ビールは良かったのかしら?)

実利的な、何かを食べたあとには歯磨きをしないと虫歯の原因になりがちですので、食べたあとには歯磨きしましょう、とか、そういう話だけではない、生活のルールとリズムのけじめ、みたいなものに、20年以上経ってから思い至った、というのは、まったくずいぶんとノンビリした話なのですが…。