ストレスとみぞおちの緊張

みぞおちの部分を、漢方の腹部触診では「心下(しんか)」と呼んでいます。この部分をおして痛みがあったり、あるいは緊張していて、そもそもつっかえるような感じがあるものを、「心下痞硬(しんかひこう)」と呼びます。本当は漢方の用語では「硬」の字を「革偏」にしているのだ、という話もあるのですけれど、まあややこしいので、ここでは「硬」の字をそのまま使います。厳密に言うと違うらしいのです。専門の先生によると、「石のようにかたいわけじゃなくて、せいぜいがなめし革くらいのかたさだから」という理屈だそうですが。なるほど…?わかったような、わからないような話ですけれど、活字が無いので、面倒です。

いろいろ面倒くさい話は他にもあって、「しんか」、じゃなくて「しんげ」と呼ぶ方々もいらっしゃるのだとか。
漢字の読みについてはいろいろ難しいのですが、伝わってきた時代からすると漢音だとか呉音だとか、そういう理屈があるのだそうです。おへそ(臍)のことも「さい」だか「せい」だかってどっちで読むか、みたいなことを真面目に議論していたりしますが、いろいろ読み方があって、どちらと定まっていないのだ、という程度でご理解ください。
統一された規格があるわけじゃなくて、漢方の診療や理論って呼ばれる技だとか知恵などが、個別に伝達・伝承されてきた、っていうことなんだろうと思います。

心下痞硬(しんかひこう)は、最近の漢方の教科書では、お腹の所見の中で、いちばん最初(か、二番目か)に出てきます。が、どうやら、一口で「みぞおちの部分がかたくて、つかえる感じがする」っていう状態、と言ってみても、その中にも様々なバリエーションがあるように思っています。表面からかたくなっておられる場合だったり、奥の方にシコリのようになっておられる場合だったり。

ところで、西洋医学の古い流れの中には「太陽神経叢(たいようしんけいそう)」と呼ばれる場所があります。いや、今では存在しないことになっていますから「ありました」と言うのが正確なのかもしれません。

これもみぞおちの奥の部分に「不安」や「恐怖」があった場合につよい緊張を引き起こす場所、として認識されていたみたいなのですが、心下痞硬の所見が見られるときも、わりと「ストレス」という言葉を頻繁に使います。
似たようなものを、洋の東西で、それぞれ認識していたのでしょうか。

「わりとそういうこと(東西で似たような結論に到達すること)は、ある」って薬学部で生薬学を教えておられた先生がおっしゃっていました。漢方の塗り薬に「紫雲膏」という軟膏があるのですが、西洋にもほぼ似たような色素をもった植物を用いた塗り薬が伝承されているのだそうです。具体的な内容まではお聞きできませんでしたが…。

だいぶ脱線が大きくなりましたが、ストレスがあるとみぞおちの部分に緊張が発生して、そのあたりに圧痛が出現する、というのはまあ、観察された現象のようです。

そして、ここの緊張があると、手足が冷えます。

さらに、呼吸が浅くなります。

加えて、胃の筋肉にも緊張が伝わると、胃痛がでたり、満腹感が早くに出たり、あるいは食欲不振、あるいは、胃酸の逆流などが出現しやすくなったり、します。

こういう緊張は徐々に積み重なっていきますから、あまり自分では気づかないうちに進んでいることがままあります。

時折はみぞおちの部分を揉んでいただきたいものです。筋肉の緊張ですから、揉むとそれだけでやわらかくなっていきます。
深呼吸がしやすくなります。
https://www.instagram.com/p/C-PPBkcC7qV/ 院長のInstagramの方に、みぞおちを揉む、の動画を挙げております。参考にどうぞ。