それって気のせい?
にしむら漢方内科クリニックは、漢方の診療を中心とした形で仕事をしております。
インフルエンザやコロナ感染症などの迅速診断キットなどは置いておりませんので、感染症の正確な診断、という部分は、他の医療機関におまかせになっております。
風邪に対して、どんな症状がどのように出ているのか、を漢方的な診察を通して解釈し、漢方薬の処方をすることで症状をやわらげてゆく、というのが当院のスタイルになっています。
漢方の診療を希望されて受診される方の中には「精神科か心療内科に行っておいでと言われた」とおっしゃる方もしばしば見受けられます。いわゆる「メンタル」な不調と見なされているのだろうと思います。
わたし自身は精神科や心療内科の公式な訓練を受けてきたとは言えない、いわば「野良そだち」です。が、一般に「メンタル」の不調と呼ばれているものの多くは、いわゆる精神科の異常ではなくて、身体と心の境界あたりの不調のようです。ですから、身体へのアプローチをすることで、体調を改善することが期待できます。
体調がしっかりしてくると、多少のストレスくらいであれば、さほど影響を受けないようになって来ます。
体調不良がどうして出てきているか?ということを考えていると、漢方的には「気の巡りが悪くなっている」というようなこともあったりします。
それって「気」のせいです…なんていうような言い方をすると、やっぱりそれは心の問題でしょ、結局ストレスなんでしょ!って思われるかもしれませんが、漢方的な「気」はある種実在するものですから、わりと、物理に近い話が中心になります。もちろん、心の状態によっても「気」の巡りに影響がでることもあるのですが、身体の状態によっても変動があります。
それを全部「原因はストレスでしょうね」って一言にまとめてしまうのは、やっぱり、ちょっと網が大きすぎるように思います。
ところで。
漢方医学を含めた、「東洋医学」が現行の西洋医学と違う点について、ある方が「気とか、プラーナとか、生命力といった、科学では説明しきれていない概念を認めるところだ」と書いておられました。
西洋医学は、こうした「気」や「生命力」という概念を、もっと要素に分解して、それを支えているエネルギーがどこからやってくるのか?というような研究を積み重ねてきています。
分析の先でもない、いわゆる「生命力」的な意味合いでの「気」が存在するかしないか、の二元論的な議論になると、存在証明っていうのは難しいわけです。ですから、西洋医学はひとまずそれを「存在しないもの」として扱う、という姿勢をとっているのだろうと思います。
一方で、鍼灸や漢方の診療では、あちこちに「気」の話が出てきます。
この「気」をなんとかして取り扱えるようにするのが、鍼灸や漢方の真骨頂ではないか、とわたしは考えています。鍼灸の学校では、解剖生理の勉強と同時に、どうにかして「気」の認識と、それに対する働きかけについて修得することを目標にしているのだと思います。また、漢方薬というのは、この「気」に働きかけられるものなのだと思います。
西洋医学で採用されている薬の中にだって、「気」に働きかけるものもあるのかもしれませんし、それと知らないうちに、「気」を巡らせて症状を軽減していたりするのかもしれませんが、漢方では、その「気」を意識的に把握し、対処しようとしている、というところが、姿勢として異なるのだ、と思います。
「気」をとらえる視点というのは、西洋医学の視点とは明らかに違うわけで、視座の差を生みます。こうした、別の視点・別の角度から見ることで、ぜんぜん違った形にその方の体調を読み解くことができるかもしれない、というのが、漢方の強みなのだろうと思います。