なぜ医者は話を聞かないのか
『話を聞かない男、地図が読めない女』

https://books.shufunotomo.co.jp/book/b142646.html
という本が昔、話題になりました。1998年の出版だったそうです。
そんなに男性って話を聞けないの…?って思ったりもしますけれど。
さらに昔。わたしが小学生だった頃に「ギネスブック」というのを読んでいたことがありました。当時は硬い表紙の本だったと思います…今調べると、わりと毎年のように新しい記録集の形で出版されているんですね…。
わたしが読んでいたのは、間違いなく昭和の時代のことでしたから、世界記録も、あちこちで更新されているのだろうと思います。
世界一長寿のひとは日本人の男性でした。今でも名前を覚えていますが「いずみしげちよさん」でした。当時はご存命だったと思いますが、120歳くらい…?と思って、こちらもグーグル先生に調べてもらいましたが、なんだかいろいろと問題があったようで、120歳の記録は取り下げになっている様子です。
そのギネスブックに「世界で最も長時間お喋りをしていた記録」みたいなのも出ていました。この組み合わせは男性同士だったのだとか、って書いてあったのを思い出しました。話は聞かないけれどお喋り、だったのか、それとも、話を聞くお喋りな男性だったのか、どちらだったのでしょうねえ。
当院では、診療をしているときに、いろいろなお話を伺います。なんなら、お喋りが目的にお越しの方もいらっしゃるのではないか、と思うくらい、お喋りに熱が入ることもあります。
一方で、世の中のお医者さんって、あまり話を聞いてくれない…という噂をちょこちょこと耳にします。
たしかに、話を聞いていない印象がありますけれど…
どうして話を聞いてくれないのか?というあたりを(わたしなりに)考えてみました。
お医者さんが話を聞かない理由、っていろいろありそうです。
まず思い当たる理由は、忙しすぎる、ということです。
患者さんが多すぎるのでしょうねえ…。といって、じゃあ、減らしましょう、って一日に受け入れる数を減らすと、てきめん、売り上げが減ります。
今の診療報酬のシステムの中では、丁寧に話を聞くことで評価されて、売り上げに繋がる部分というのはほとんどありません。ですので、話を聞けば聞くだけ、他の仕事ができなくなる分、診療の売り上げが減る、という残念なことになっています。
忙しすぎるのに加えて、「話を聞くことによる医者へのメリットがないどころか、むしろデメリットになりうる」というのがあるのかもしれません。
もうひとつ、割とすぐに思い当たる理由としては、「話を聞いても、聞かなくても、そこからの医者としての対応が変わらない」というものもありそうです。
わたしが駆け出しの医者だったころ。いろいろな検査をするかどうか、考えて悩むことがありました。
その時に教えて貰った格言的な言葉は
「結果を見て、行動が変わる可能性があるなら、検査せよ」
「結果がなんであっても、行動が変わらないのなら、検査の必要はない」
という基準でした。
だから、患者さんの話を聞くことで、その情報を得て、行動…たとえば検査の方針とか、あるいは処方の内容とか…が変わる可能性があるなら、それは(医学的に)大事な情報、ということになるわけです。
ですが、多くの場合は、「その話を聞いても、医者としての行動(検査するとか、薬を変更するとか)が変わらない」というところにあるのではないでしょうか。
逆に言うなら、お医者さんにちゃんと聞いてほしい話を持ち込む時には、彼らの行動が変わるような情報をちりばめることが大事、ということになります。
なんらかの症状が気になって受診されるなら、たとえば、「症状の性質」「いつ頃始まったのか」「どんなときにその症状が出てくるのか」「症状が軽減するような行動」「症状が悪化する時の状況」などはとても重要な情報になります。
一方で「その症状でわたしがどれだけ困ったか」とか「その症状がでてからどれだけ不安になったか」あるいは「周囲のひとたちがどのくらい助けてくれたか、助けてくれなかったか」などの情報は、医者がそれをいくら貰ったところで、診断や治療を行うことになんの効果も影響もありません。そういう話が山盛りになってくると、お医者さんの耳はどんどん塞がっていくようになるのかもしれません。
とはいえ、雑談のような話のなかで、ぽろっと出てくる情報が、カギになる、なんていうドラマみたいなことだって、稀にはあったりします。
なかなか、そこまでの雑談している余裕が無い、というのがいちばんの要因なのでしょうねえ。
当院の診療では、お喋りも大事にしています。
ただの雑談というなかれ。その中で元気になっていく仕掛けを作っているのです。こうした「いっけん雑談にみえる会話の中で元気になってゆく仕掛け」というのは、とあるところで教えていただいたのですが、きちんと実践しようと思うと、とても難しかったりします。
なかなか、こうしたお喋りは、診療報酬に反映されない部分ですので、経済との兼ね合いが難しいところではありますが。






