不定愁訴のこと

不定愁訴(ふていしゅうそ)」、って言葉があります。

「不定」ですから「なんだかよくわからない」という意味でとらえることができます。
「愁訴」ですから「こまった、しんどい、なんとかしてほしい、という訴え」と読むことができます。
不定愁訴、ってなると「なんだかよくわからないのだけれど、困った、しんどい、なんとかしてほしい、という訴え」ってことになります。

問題はこの「不定」の「なんだかよくわからない」の部分なんです。

ものの本には「いろいろと訴えが転変する」って書いてあるものがあります。
「なんだかしんどいとかつらいとかがあるのだけれど、その時々に症状が違う」っていう理解です。

診療をやっていると、毎回、いろいろ「つらい」とおっしゃるのはおっしゃるのだけれど、前回の「これこれがしんどい」っていう部分をよくよく訊いてみると、それはおそらく解消していて、次の症状が前景化している、というような、そういう形でいろいろしんどい、つらい、とおっしゃる方も、時々いらっしゃいます。

じゃあ、これが「不定愁訴」なのか?って訊かれると、それ「も」不定愁訴に分類されるんだろうとは思いますが、本質を「転変する」部分に置いてしまうと、間違えてしまう、とわたしは考えています。

英語で不定愁訴は「Unidentified complaint」って書くのだそうです。
つまり「不定」というのは、医師がその症状の原因を定位できない、という意味ではないか、と考えます。

症状や異常感の訴えがあって、しかし、その異常感が何を起点として、どのような経緯で出現しているのか、が、説明がつけづらい。そういう症状のことをまとめて「不定愁訴」と呼んでいるのだと考えると、この「不定愁訴」っていうものがわかりやすくなります。

つまり「検査では異常がみつかりませんでした」って、いうことです。

なので、産婦人科の講義をやっていると、主に「更年期障害」のところでしばしば、この「不定愁訴」という表現を目にすることになります。更年期障害の定義もまあ、不便なものではありますが、いわゆる内科の異常ではないこと、ってなっていますので、つまりは「検査では異常がみつからないもの」になってきます。

このあたりを、どうやって対処していくのか…?って部分が、臨床ではとっても重要になってくるのですが、まあ、わたしのクリニックでは、主にそういう「不定愁訴」と呼ばれる症状を読み解いて、それらを上手に位置づけしていくことが中心になるのだろうと思っています。

漢方は、西洋医学とは多少異なった臨床の智恵を持っていますので、「不定愁訴」と呼ばれるものの解釈も分析も、ちょっと違った角度から行うことができますし、むしろ、そういう症状から漢方の処方を決めることができる、ということだってあったりしますので、クリニック開院まで今しばらく、お楽しみにお待ちくださいませ。