健康教室「漢方医が語る鍼の話」
毎月のように、健康教室、と称して、駄弁会をしております。
今月は「鍼の話」としてお話をしておりました。

鍼って、けっこう歴史が古い、とされています。漢方の歴史も古いのです。三世紀に書かれた教科書が『傷寒論』(しょうかんろん)だ、とされています。もう一冊は『金匱要略』(きんきようりゃく)とされていて、この2冊が『傷寒雑病論』(しょうかんざつびょうろん)として、一冊だったのだとか、そういう話になっています。
で、この『傷寒論』くらいの時代の治療法に、「砭石(へんせき)」って言葉が出てくるのですが、これが「鍼」のもともとのスタイルなんじゃないか、って言われています。
遡ると、氷河に保存されていた人類(アイスマン)の皮膚に入れ墨があり、この入れ墨の形が経絡に極めてよく似ているから、なんらかの治療であったのではないか、みたいな話があります。この人類が紀元前3000年くらいのものらしい、って話になっているそうです。
そんなに細い鍼を作ることができたの?って話もありそうですが、それなりに細い針、あったようです。

https://www.thehistoryblog.com/archives/73532
これが直径0.3から0.5ミリなのだとか。
わたしが使う鍼が0.16とか0.2ミリの、少し細めの鍼ですが、それに負けないくらい細い。後漢の時代の遺跡からの出土だそうで、新しいと3世紀くらい、古いと紀元前くらいに該当するようです。
『傷寒論』とちょうど同じくらいでしょうか。
鍼は、医学部の学生になったときに、鍼灸師の知人からわけてもらって、自分の身体をつかって練習していました。
操体法という健康体操があるのですが、これを提唱した橋本敬三という内科医がいます。彼が、大学から出て、開業医になったら、医者っていうのは何も治せない、ということに気づいた。なので、民間療法の上手な治療家を呼んで、いろいろと教えて貰った…と書いておられます。
その時に教えて貰ったことでしょうか。鍼もじっくり回しながら入れたら、すっと入っていくのだ、という文章があり、そのような文章を頼りに練習し、自分で使っていたのでした。
鍼の形、というのは、けっこういろいろな種類があります。
古代には9種類の鍼が使われていた、という話で、「古代九鍼」というものを練習しよう、という団体と講習会もあります。
https://www.teg.ac.jp/course/oriental_medical/blog/detail/id=4249
その中には刺さない鍼もありました。
ひとつは「打鍼」ですね。わたしも診療中によく使います。お腹に銀の棒をあてて、木槌でトントンと叩く形の刺激を入れるものです。

これはわたしが使っている打鍼の鍼と槌です。槌に鹿の革が貼ってあるのが特徴。

打鍼の槌と鍼を持ちだして説明しているところ。
もうひとつ、刺さない鍼としては「てい鍼」というのが有名です。


鍉鍼二種類。細いのとか、太いのとかいろいろあります。材質もそれぞれ。
刺す鍼で長いものは1メートルくらいのものを使うこともあるのだそうです。
一度「巨鍼(こしん)」といって、直径1ミリメートルか、もう少し太い鍼を背中に入れてもらったことがあります。
上手な方のデモンストレーションでしたので、思いのほか痛くなかったのを覚えていますし、出血もほとんどありませんでした。
世界的には「YNSA」っていう鍼が有名です。これは「山元式新頭鍼療法」ということで、熊本県で診療をなさっておられる医師の山元先生が発見された方法です。これもそこそこ太い鍼を使う。いちど講習会に参加しましたが、おでこあたりに鍼を刺すのですが、出血していたことを覚えています。
もうちょっと一般向けにも使いやすい鍼としては「貼る鍼」があります。円皮鍼(えんぴしん)などと言われます。細い針ですし、長さも極めて短いのですが、なぜかそれが有効、という話になっています。
刺激が少ないのにもかかわらず、なぜか効く、というのは、ローラー鍼なども似たような性質があります。なかなか面白いことが起こりますので、本当に興味深いです。
わたしは、自分自身が按摩、マッサージ的な領域から仕事をはじめたので、鍼の使い方もその延長にあります。つまり、筋肉の緊張をほぐしてゆくために、鍼を使います。鍼灸師さんたちは、その他、経絡を鍼で刺激することで、鍼の刺さっている場所からは遠い場所に効果を及ぼすことがあります。
フィリピンに、鍼灸師さんと一緒に訪問した時に、脳出血の後遺症で、半身不随、歩けない、という方がいらっしゃいました。車椅子に乗っておられて、どうしたいの?って尋ねたら、歩けるようになりたい…とのこと。いや、脳幹部付近の出血で、これだけの出血があって、命が残っているのが不思議なくらいなんだよ…なんて話をしていたのですが、鍼灸師さんに無茶振りしてみました。
「先生、脳出血の後遺症のかたなんですが、歩けるようになりたいんですって…。お願いします!」って。
しばらく考えて、おもむろに「じゃあ、やってみます」ってその鍼灸師の先生、鍼をうちはじめたんです。
で、ちょっとしてから、「手を動かして」っておっしゃるから、横で見ていて、「いやだから、先生、その人半身不随ですから、そっちの手、動かないんですって…」って茶々を入れようとしたら、その瞬間でした。
今まで動かなかった、っていう手が、動いたんです。
その後、鍼灸師さんが滞在されている間、連日通われて、立てるようになった、という話を現地の助産師さんから聞きました。
鍼ってすごい。
あとでうかがったら、ともかく気を巡らせるようにした、というような話をされていました。
鍼という道具を通して、治療家が気を動かす、というのが、鍼のポイントなのだろうなあ、と最近はそのように考えています。だから、どこのツボを使った、とか、どういう鍼だった、ということも大事なのだけれど、その鍼と一緒にどのように「気」が動いたか、あるいは動かなかったか、というところが、効果が出るとか、出ないとか、っていうポイントになるのでしょう。
ですので、鍼は効くのか、効かないのか、という質問については、「効かせられるのか、それとも効かせられないのか」というところが問題なのだ、とお返事しています。
鍼が得意なのは、筋肉など、局所の緊張を緩める、というような方法。逆に、全体の体力を補う、というのは、ちょっと苦手です。鍼を使いながら動かすのは本人の身体の中の「気」ですから、ぜんぜん足りない状態をどんどん補う、ということはしづらいわけです。
逆に漢方薬は、気を補う、ということについては、補剤がいっぱいありますから、わりと得意です。なので、漢方を使いつつ、必要に応じて鍼、というのはとても良い組み合わせになるだろうと思っています。













