更年期ののぼせについて

更年期症候群とか、更年期障害と呼ばれる一連の病態がありますけれど、その中でもわりと中心的な部分に「のぼせ」っていう症状があります。
ホットフラッシュとか、顔汗とか、頭汗とか、いろいろと症状をおっしゃる方があるのだけれど、頭が熱くて、あつくて、その熱が逃がしきれなくてしんどい、というような状態です。
いわゆるホルモンの変動で説明していた頃は、この頭の熱の病態を、「卵巣がエストロゲンの分泌を十分にできないようになったから、その反動で、『卵巣頑張れ!』って脳の部分でFSHホルモンが過剰に分泌されるようになる」という状態だと言っていました。脳の部分で頑張っているために、熱くなるわけです。
もちろんそういうこともあるのかも知れない、とは思います。
今は、もう少しシンプルになりました。
更年期の時期っていうのは、そもそも、いろいろと悩みごとや考え事が多くて、それが慢性的に頭に負担をかけて、熱がこもっている、という背景があるのだけれど、この熱を月経血で逃がしていた。閉経すると、熱を逃がす場所がなくなるので、のぼせるようになる、という説明です。
もちろん、ここにエストロゲンのホルモンが存在すると、症状が覆い隠される、という傾向があるのだろうと思います。なので、エストロゲンの減少によって、症状が出現してくる、という説明が間違っているわけではありません。
わたしが大学病院で婦人科漢方外来を始めた頃は、まだ補剤を使うことしかできていませんでした。なんと未熟な…。なので、熱を冷ます処方である、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)とか、温清飲(うんせいいん)という「清熱剤」の選択肢はあまりわたしの中にありませんでした。そんな未熟な状態で、一生懸命「血」を補うような処方を組み合わせることでなんとか…とこうした「陰」を補う補剤を使っていました。これで良くなった、という結果を出すまでには、なかなか時間がかかります。補気も同時にやっていましたので、倦怠感や不眠などは改善しました。そうした「しんどい」の症状は軽減していたものの、ホットフラッシュとかのぼせを解消するのは難しかったわけです。
そんな時にホルモン補充療法を行うと、ビックリするくらい劇的に効果がありました。「ホルモンの貼付薬を使ったその日からホットフラッシュがなくなりました!」と次の診察の時に報告してくださる方が立て続けにおられたのです。
もちろん、漢方外来に来てくださっている方には、もろもろの事情があり、持病のため、とか体質のため、とかの理由で、ホルモン補充療法をしてはならない、という背景のある方も多かったので、全ての方にこれが有効、という話ではなかったのですが…。
更年期の症状は、「出産や育児が困難であった場合」に、より強く出る、という傾向が報告されています。更年期以前もしんどかった方が、更年期でもつらい、って踏んだり蹴ったりじゃないか…と思っていたのですが、日々のしんどさが不調に繋がっていて、更年期症状の形で出現してくる、ということなのだろうと思います。
なので、日常の対処としてできることを整理すると、「疲れをため込まない」とか、「睡眠をしっかり摂る」とか、そして、「タンパク質やミネラル、ビタミンをしっかり摂取する」などの基本的な体力つけることが大事、ということになります。
その上で、「頭の使い過ぎに注意」ということになります。これは頭を空っぽに、軽くしておくこと。頭の中にいろいろなものを置きっぱなしにしないこと、です。
どうしても考え事や悩み、あるいは細々とした「覚えておかなければならなこと」が頭の中に詰まっていると、頭が熱くなりがちです。頭を整理して、熱が発生しづらい状況にして頂けたら、意外とホットフラッシュも消失するのではないか、と考えています。