直接会う贅沢

コロナの感染拡大防止対策が進んでから、Web上でのやりとりはだいぶ増えたように感じます。

「Zoom」というのがオンラインミーティングするという意味の動詞になった、という話を聞いたような覚えがあります。今までなら、会議に参加するのに交通費と時間がかかっていたところを、在宅でありながら会議に参加できるようになりました。
医学系の学会もずいぶんとWeb開催ないし、ハイブリッド開催が増えました。診療に穴をあけられない、などの事情で、今までなら参加できなかった学会に、居ながらにして参加できる、というのはとても便利な時代になったものだ、とありがたく思います。

そんな「便利」な時代であるからこそ、直接会って、話をする、あるいは話を聞く、という機会はとても贅沢なものになりました。

とはいえ、やはりWebを介したやりとりでは、思ったように情報が伝わらない、というのも実際にあるようです。ある方は、直接話をしているときはそれほどでもないけれど、Webミーティングが重なると、声がかれる、ということをおっしゃっていました。わたしもオンラインの向こう側に伝えるために、少し声を張るようなクセがあることに気づきました。

昔、ラジオ放送というものが始まった頃に、落語を一席お願いしたら、とあるお師匠さまが、ずいぶんと声を張り上げておられたのだそうです。「お師匠さま、どうしてそんなに声を張り上げて…?」ってお尋ねしたら「だって、全国津々浦々まで届けるんだろ。声張らないでどうやって届くんだい?」って落語みたいな話になったそうですが、ネットを挟むと、ついつい、声が大きくなります。あまり古いお師匠さまを笑うわけにもいかないのかもしれません。

わたしもWeb面接ができる体制を作りましたが、やはり、画面越しではいろいろと不便なところがあります。「隔靴掻痒」という四字熟語がありますが、実際に隔たりがあるわけですから、まさに画面を隔てて、痒いところを掻く、みたいな気分になります。

そういう意味では、贅沢ではありますが、直接お目にかかると、お身体に触れることもできます。触れれば、身体の声を聞き取ることも割と容易になりますから、そういう言葉をお伝えすることだって可能になります。

脈に触れ、背中に触れ、お腹に触れ、そして頭に触れて、それぞれからの声を聞くことで、ご本人のお困りごとを、別の角度から改めてみせていただく、というのは、ずいぶんと贅沢な時間の使い方なのかもしれません。

このクリニックを作った目標のひとつが、そういう場所を作ること、でしたので、本当に願いがひとつ叶ったわけで、この設えが、思いのほか、治療効果をあげている、という手ごたえがあります。

お困りごとや悩みごとがある方、本当にご足労をおかけしますが、ぜひ、いちどお越しくださいませ。

直接お目にかかることで、伝わることというのがたくさんあるのだ、と改めて実感していただけると思います。