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子宮内膜症、という病気があります。
子宮内膜と似たような構造を、子宮の中ではないところに構築し、月経のタイミングで出血したりする…という、ちょっと面倒くさい病気です。
癌じゃないのに、病巣が播種…といって、お腹の中のあちこちにうつっていく、みたいな話だってあったりしますし、腹腔内でくっついた場所によっては、出血と修復を繰り返すうちに、その場所の構造を少しずつ壊したりしながら、奥に入っていったりします。
そんな子宮内膜症が、卵巣の内側に起こると、出血した血液がそのまま卵巣の中に溜まる…嚢胞を形作る…ようになります。この嚢胞に溜まった血が、長年の蓄積で変質したりします。
手術の時に、この嚢胞を切開すると、どろり、と、流れ出す内容液が、あたかもチョコレートのような色合いと、質感に見えることから「チョコレート嚢胞」と呼ばれることもあります。
この子宮内膜症性嚢胞、あるいは、チョコレート嚢胞、なのですが、わたしは、長い間、「ここから癌が発生する」という形で習ってきました。
今でも、日本産婦人科学会のWebサイトには
「卵巣のチョコレート嚢胞は、数年~数十年後にがん化(悪性化)することもあります。したがって、子宮内膜症は長期間にわたり経過を観察する必要があります。」
と書いてあります。
なので、わたしも、患者さんにはそのようにお伝えしてきました。ブログにもそう書いています。
が、先日ふと聞いたセミナーで、同門の先輩が講演しておられたのですが、どうやら、そういう話ではないのだ…ということをおっしゃっていました。
ええええ?って驚きの声が上がるような主張で、本当かしら…?と思っているのですが、その先生の調査によると、たしかに、子宮内膜症性嚢胞があった方から、卵巣癌が見つかることがある、ということは、ある、というのですが、それは、もともとの嚢胞とは別の部分から出てきているのだそうです。
そもそも、大変ゆっくり進行する卵巣癌が、そこに隠れていたのかもしれない、という話をされていました。
そういう形で、癌の見落としが、事後に判明することはそれなりにある(ので、これが発見されたときには早急に手術などの手立てをとる、ということにする)が、それらは、子宮内膜症性嚢胞からの発癌ではなさそうだ、という仮説に今はたどり着いておられるのだそうです。
そして、そのような説明をして、患者さんに「手術しますか?それとも経過観察にしますか?」と確認されると、ほとんどの方が経過観察を選ばれるのだとか。
おおおお。
なんという。
教科書の改訂が間に合っていないではないですか!
わたしが学んだころは、まことしやかに「血液が溜まっているだろう?その中の鉄の元素が、刺激になって…」という形で理屈が立っていたのでした。
その鉄の刺激で癌化した、という話はいったいどこにいったのでしょうか、ねえ。
昔「コールタール」には発癌作用がある、ということで、ウサギの耳にコールタールを塗り続けた…という研究の話がありました。
https://museum.umic.jp/yamagiwa/works01-1.html
鉄の話もひょっとすると何らかの癌を引き起こす、という話が認められているのかもしれませんが、内膜症性嚢胞の中の「チョコレート」部分はそういうものじゃなかった、ということかも知れません。
いやあ、しかし、今まで「当たり前」だと思っていたことが、「実はそんなことはない」と言われると、ちょっとビックリします。
いくつになっても、新しいことを学ぶ姿勢が必要なのだなあ、と思いましたが、全てのことについて、最新の知識を持っておくのは、大変なことでもあります。
わたしも、時代に取り残されないようにしたいところですが…ほどほどに、ですか、ねえ。









