腹部の触診のこと

産婦人科医の常勤時代に、体調を崩して、そこを退職してから、健康診断のお仕事をさせていただくことになりました。

ちょうどその頃からなのか、健康保険組合によっては「腹部の触診」が内科健診の項目に組み込まれたらしく、時々「今日は腹部の触診もありでお願いします」ということがありました。

いままで、病院の診察室で待っていた時と、健康診断で診察する場合というのは、だいぶ条件が違います。病院の診察室には、自覚症状がある方しかいらっしゃらないし、その症状も、言ってみたら仕事を休んでなんとかしたい、と思われた方がほとんど、っていうことになりますので。

健康診断の診察は、おおよそ、2-3分におひとり、くらいのペースでいらっしゃることがあります。半日(3-4時間)で90人くらいになると、だいたい2-3分でお一人、のペースがずーっと続くことになります。

このペースで診察をして、次の方に入っていただいて、というのは、けっこう慌ただしいですし、もう少し余裕がある事が多いのですが、それでも、午前午後で100人を超える診察をさせていただいたこともあります。

そうすると、お腹の触診してみても、「なんにも無い」方がけっこういらっしゃる、のです。これは病院の中で診察していたときには気づかなかった、新しい視点でした。

ことさらに、じゃあお腹の触診してみて、いろいろある方は、やっぱりそれなりの状態になっておられるんだろうな、と思います。

お腹といっても、上から下まで、けっこう広いですし、表面近くから、奥の方まで、深さもいろいろあります。腹部の触診は漢方の処方を決めるのにも大事な情報ですが、それだけじゃなくて、按腹と言って、お腹の緊張を緩めることや、腸の位置を整えることで、調子が改善する方も結構いらっしゃいます。

一部の腰痛も、背中側からより、腹部からの方が原因がわかりやすいものもあったりしますので、腹部の触診、単純なようで、奥が深い世界になっています。

ちなみに、腹部触診などの様子を記録された古書がこちら
『腹証奇覧』京都大学貴重資料デジタルアーカイブhttps://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00004914