質を担保する

そういえば、こういう生の果実を搾る、っていう時に「ハズレ」のオレンジとか、って混ざったりしないんでしょうかねえ…?そう考えると、味が微妙だったりしないように、結構な手間暇がかかっているのかもしれません。一杯600円というのは、それなりに品質を維持するためのコストとして必要なことなのでしょうか。

わたしがクリニックで処方している漢方は、だいたいが「エキス製剤」というものになっています。もともと、漢方薬というのは、生薬…薬のもとになる植物の葉っぱや根っこ、あるいは茎、実などを乾燥させたりしたもの…を、うまい具合に取り混ぜて、それを鍋で煮出す、ということをやっていたのでした。

古い本には「いにしえの人々は、この、煮出す湯気を浴びるだけで健康になった」みたいなことが書いてあります。古い本の、さらに「その昔」という話ですから、そういう神話を作った、ということなのだろうと思っています。湯気には漢方薬の香りが載りますから、あながち見当違いでもなかったのかもしれません。

漢方薬を毎日煮出して、それを飲む、というのは、かなり手間がかかります。平たく言うと「面倒くさい」。ということで、うまいこと簡便な形にできないか、と京都の先生が考えた時に目にしたのがインスタントコーヒー…だったかどうかは知りませんが、フリーズドライしたら良いんじゃない?って考えたのだろうと思います。

もちろん、これはいろいろ混ざった漢方薬のエキスですから、微妙な調整ができません。生薬を足す、ということは比較的簡単ですが、一種類ないし二種類を「引く」ということは現実には不可能です。なので、今あるエキスの組み合わせでは対処できない、などという場合は、煎じ薬を使うことも想定されています。

煎じ薬に使う生薬は、薬局が管理してくださっているわけですけれど、これも、だんだん仕入れ値が上昇してきています。なので、保険での煎じ薬は、年々用いられる生薬のグレードが下がっている…という話も聞いたことがあります。世知辛い世の中です。

ですので、煎じ薬の方が質が良い…と一般的には考えられているのですが、よっぽどひどい煎じ薬くらいなら、メーカーが作ったエキス製剤の方が、品質的に安定している、ということだってあり得るわけです。きちんと診療されているところは、それなりの質の生薬を準備してくださっている、と思いますが、まれに、品質の悪い生薬を使われたりして、血液検査の異常が発生したり、などということもあるようです。

こうした品質を確保するために、大手のメーカーさんは、同じような状況の生薬を大量に仕入れる、ということをされています。そして、何らかのノウハウで、その品質を管理しているそうです。

世界的な温暖化が進みつつあり、今までよりも、生薬の生産地を北に移動させねばならないかもしれない…という話も出てきているのだそうです。大きな話ですが、このあたり、職人気質というか、メーカーさんが品質について、一生懸命頑張って維持してくださっているんだなあ…と、お話を伺って、あらためて、ありがたいことだ、と感謝の念が湧いてきたのでした。

ひるがえって、わたしの診療ですが…。

わたしが、わたしの診療の質を頑張って確保する、というのは、まあ、できることです。

が、じゃあ、鍼を使う方が、わたしと同じようなことが、同じ質でできるか?というと、必ずしもそうとは言い切れません。

もちろん、わたしより上手な鍼灸師さんもたくさんいらっしゃいますから、わたしが基準、ではないのですが、いわば「ばらつきがある」ということになります。

この「ばらつきがある」ということが、鍼灸治療の難しいところなのだろうなあ、と、漢方薬の話を聞きながら思ったのでした。

うまいこと、全体の鍼灸治療に対する品質の担保ができたら、もう少し話はかんたん…になりそうなのですが…。