起立性調節障害のこと

ふと、目が覚める時に、突然「起立性調節障害、って、もうこれ以上頑張れない、っていう状態が反映されたことだよな…」って、天啓のように言葉がまとまったので、ちょっと書いておきます。
起立性調節障害、とか、起立性低血圧、っていうのは、横になっているところから、頭を起こしたりするときに調子が悪くなる、という現象を捉えた病態の名前で、自律神経の不調である、とされています。
小学校高学年から中学生の思春期前後の子どもでは、このような朝起きの悪さ、たちくらみ、頭痛、腹痛、全身倦怠などの身体不調を訴えて小児科を繰り返し受診することがあります。
しかし一般的な診察や血液検査では該当する異常を認めない場合、多くは起立性調節障害(OD)と診断されます。
起立性調節障害は、思春期で最も起こりやすい疾患の一つであり、頻度は約5~10%と大変に多いものです。
わたしたちの心臓は、頭にきっちり血液を送ることを、24時間・365日してくれているわけですが、心臓と頭の位置関係によって、心臓の頑張り具合が変わります。
具体的には、心臓と頭が同じ高さにある状態…横になっている状態の時は、それほど頑張らなくても頭に血液を送り届けることができますが、立ち上がったり、座ったりすると、頭は、心臓よりもずいぶんと上にあることになります。この時、横になっていたときと同じ調子で心臓が血液を送り出していると、頭への血流はだいぶ減ります。なので、起き上がるタイミングで、心臓はすごく頑張るようにする…という部分は、ずいぶんと複雑な調整が必要なようですが、この部分の調整を自律神経がほぼ自動的にやってくれているわけです。
ところが、この調整がうまくいかなくなることがある。
それを「自律神経の失調」という形で呼ぶわけです。
では、なぜ自律神経の調整がうまくいかなくなることがあるのか?っていうところを、ざっくり擬人法的に説明すると、つまり、自律神経が「頑張り続けているから」っていうことになります。
毎日、100%頑張り続けている…っていうのもすごく大変なことですが、100%で頑張り続けているところに、もうちょっと頑張れ、って言われても、それに対処ができません。
本来なら、普段の頑張りを50%くらい(え?そんなに低いの?って声が出るかもしれませんが、平常運転は「頑張らない」ところを標準にしていただきたいものです。そうじゃないと、本当の頑張りどころで頑張れなくなります)。すごく頑張ったとしても全力の70%くらいまでを目安にしていただきたい。
ところが、いろいろな事情で、少しずつ目標数値が上に寄ってしまったりする方がいらっしゃいます。
ある程度のところまでは、なんとか頑張れるのでしょうけれど、普段の頑張りが95%とか、あるいは100%とか、っていう状態になってしまうと、そりゃ、そこから「もうちょい頑張って」っていうのは、対応できないことになります。
わたしは、自律神経の失調って呼ばれている状態の多くが、こういう「普段からの頑張りが過ぎている」ところにあるのではないか、と思っています。
ひとの頭は、切り替えが苦手ですから、いちど頑張り始めると、どこかでずーっと、緊張が残る、ということも珍しくありません。うまく切り替えて、って言葉ではよく言いますが、実際にはうまく切り替えられないのが普通です。
朝から、身体がしんどいけれど、頑張って起きて、頑張って出かけて、頑張って日常を送って、頑張って帰宅して…。家に帰ってからも頑張って宿題や用事をして、と頑張り続けている状態になってしまう可能性があるのですが、この頑張りが続いている状態では、身体が休まりません。身体が休まらないままで、眠る…といっても、頑張りの緊張が続いているままですから、体力の回復がうまくいかないとか、上手に眠れないとか、そういうことが重なります。
そうすると次の日の朝はもうひとつ身体がしんどいけれど…ってなります。悪循環にハマってしまうのかもしれません。
こういう、頑張りが続いてしまっている中で、普段の頑張り具合の数値が少しずつ増えていくと、何かあったときの予備にとっておく部分がなくなります。この予備がなくなった状態で、「さあ立ち上がって!」と言われても、血圧をぐいっと上げるだけの頑張りが、どこからも出てこない、っていうのが「起立性調節障害」って呼ばれる病態として把握される、ってことなのではないか、と思うわけです。
どうかくれぐれも、無理をしない、ということと、頑張らなくても良い場所を確保することからはじめて頂きたい、と思いますが、漢方の診療で、たとえばよく眠れるようになるとか、あるいは、体力の回復を手助けできる、という処方もあります。こういう形で身体の状態を整えていっていただくと、回復のお手伝いくらいはできるのじゃないかな、と思っています。