身体の錯覚

小鷹研理という方が、『身体がますますわからなくなる』、という本を出版された、という話を見かけて、書店で探してみたのでした。

身体の感覚、というのは、わたしの臨床ではいちばん焦点をあてやすい部分ですが、この身体の感覚が、意外にも、かなり簡単に錯覚を起こす、のだそうです。
指の長さが伸びる、とか、皮膚がどんどん伸びていくとか。

錯覚と言えば、目で見る錯覚である「錯視」は、かなり研究が進んでいます(たとえば:錯視のカタログ )。こちらの話にも大変興味深いものがあります。古典的な錯視から、最新の錯視までいろいろ盛りだくさんだったりします。一方、身体感覚の錯覚、というのはあまり研究されていなかった?のでしょうか。錯覚といえば、錯視のこと、のような印象がありました。身体感覚の錯覚、というのは、ひょっとすると、コンピュータによるCGと映像をリアルタイムで組み合わせるような方法が使えるようになったことで、より、錯覚を作り出しやすくなった、ということもあるのだろうと思います。

この本によると、ひとの身体の、伸び・縮み、というのは、わりと容易に実現するのだそうです。
その一方で、腕の本数を増やす、というような、数を増やす錯覚は発生しづらいのだそうです。

(身体感覚の拡張、という意味合いで、親指を拡張する実験をされている方もいらっしゃいます。たとえばこれとか これ なんかは、小指の向こう側に親指をもう一本設定するような試みです。こちらは、指の本数が増える、という経験になります。これで、身体の地図が書き換わるのであれば、指が6本の生活が当たり前になったりして、逆にデバイスを外したときに6本目の指を「喪失」することのデメリットが大きくなってくるのかもしれません)

へえ…と早速、簡単な実験を試してみたら、たしかに、書いてあるように、錯覚が発生するわけです。耳たぶが伸びるなんていうのも、本当に不思議な体験でした。

錯覚することは、ある種の「誤認」ということになりますが、その誤認そのものが単純に「悪い」ものであったり、避けるべきものである、というわけではありません。むしろ、こうした、感覚における「ズレ」や「錯覚」を上手に使うことができれば、極めて治療的な関わりになり得るのだろう、と、本を読みながらわくわくしてきました。

他にも、興味深い話題が目白押しで並んでいますので、身体感覚について、考えてみたい方には、お薦めできる本だと思います。