院長のバーチャル講義5(月経前症候群(PMS)とその治療について)

月経前症候群は英語ではPreMenstrual Syndromeと呼びますので、その頭文字をとってPMSと呼ばれることもけっこう多いです。
月経開始7日前ころから、3日前ころまでに出現し、月経が開始するとともに症状が軽快・ないし消失するのが特徴とされていますが、さまざまな症状が出現します。
一般的な内容についてはあちこちのWebサイトで病状の解説・説明がされています。
例えばこちら(https://www.jsog.or.jp/citizen/5716/ )には、日本産婦人科学会が一般の皆様へという形で情報提供をしてくださっています。

病態については、世の中では「ホルモンバランスの乱れ」という表現を使われることが多いようですが、PMS症状が出現する方は月経周期におけるホルモンの状態としては、正しくプロゲステロンが分泌されている事が多く、むしろ、そのプロゲステロンの分泌によって症状が出現している可能性が指摘されています。

また、月経開始後に症状が軽快・ないし消失することが診断基準に掲げられていますが、病態が長期化し、本人の体調悪化が継続していると、月経開始後も症状が残存することがあります。
こうした病態をPME(Premenstrual exacerbation)と呼ぶ場合もあります。
そして、精神科領域では、月経前期分不快症候群(PMDD)と呼ばれる病態を近年認めるようになり、アメリカ精神医学会がDSM-5に項目を立てて診断の基準を定めています。

このように書いてくると「月経前の時期に異常が出現して、月経が始まるとその異常が消失・ないし軽減する」病態、だと考えたくなるのも無理はありません。
私も昔はそのように考えていました。

しかし。今はちょっと見方が変わりました。

月経前症候群(PMS)、ないしその類縁疾患であるPME、PMDD、はいずれも、慢性的な体調の不良が背景にあります。そして、エストロゲンが分泌されることで、この体調不良を「覆い隠している」のです(これはまだ証明されていませんし、そのような学説を採る先生も多くありません)。

月経前の、いわゆる黄体期はプロゲステロンが分泌されることで、エストロゲンによる「支配」が緩んでいる状態と言えます。じつは、このエストロゲンの影響が少ない状態が「ふつう」だというのが、私の考えです。

どうしてそのような事が起こるのか、エストロゲンがずっと優位に支配していたら良いじゃないか、って考えるのですが、エストロゲンには、「発癌作用」があるとされています。
ですので、時々はエストロゲンの作用を軽減する必要があるのです。

月経前症候群(PMS)のご相談でいらっしゃる方は、ほとんど皆さん「頑張りすぎ」です。出てきている症状をしっかり把握していただいて、それが、日々の生活の影響から来ている、ということを認識していただくと、日々の生活が変わっていきます。そして、ご自身の生活スタイルをかえていただくことで、月経前の不調に振り回されなくなる、ようになっていく、というのが、治療の目標になっていきます。

その上で、消耗している体力の底上げや、不調の軽減に、それぞれ適切な漢方薬製剤を用いることで、症状に振り回されない自分を立ち上げていただくお手伝いをすることができます。

なお、保険収載はされていないのですが、薬局ではチェストベリーから作られたPMS向けのお薬もあります( https://prefemin.jp) ので、こちらは薬局でご相談ください。