院長のバーチャル講義8(骨盤臓器脱について)

骨盤って言うのは、普段はお腹の底を支える部分なんですけれど、出産の時には、ここの筋肉や靱帯が緩んで、赤ちゃんが出てくる場所ってことになっています。他の哺乳類は、骨盤底は、「横」向きについていますので、あまり荷重がかかりませんが、ヒトの場合は骨盤底が文字通り「いちばん下」を支える形になっています。

産後、いったん伸びた靱帯や筋肉は、ひとまず回復してくるわけですけれど、特に「多産の方」だったり、あるいは「腹圧が高い」方だったりすると、この一度緩んだところから、子宮などが下がってくる、ということが起こります。

これを全部ひっくるめて「骨盤臓器脱」と呼びます。

下がってくるのは主に子宮が中心になりますので、子宮の下降具合によって「子宮下垂」ないし「子宮脱」と呼ぶことが一般的です。俗に「なすび」などと呼ばれることもあるようですが、ちょうどなすびがぶら下がっているような形になる方もあります。

子宮は前側では膀胱に接していますから、子宮が下がると、膀胱も一緒に下がってきます。こうすると、膀胱の形が折れ曲がることになりますので、排尿にトラブルが出てきやすかったりします。
また、後ろ側では直腸が近くにありますから、これも一緒に下がってくると、今度は排便のトラブルも出てくることがあります。

軽症の場合は、保存的治療としてペッサリーなどの器具を腟内に挿入・留置して、子宮や膀胱・直腸の下垂を防ぐことをしますが、この支える器具がどうしても違和感が強いとか、あるいは、すぐに脱落する、とかいうことになると、手術による子宮脱の修復を行うことになります。

手術としては、下がってきている子宮を摘出して、腟壁を縫い縮める、古典的な子宮脱修復術の他に、腟を前後で縫い合わせて閉じてしまう腟閉鎖術という方法や、あるいは腹壁ヘルニアの治療に用いるようなメッシュを用いて腟壁を持ち上げる方法があります。いずれも一長一短がありますので、ご自身の生活に見あったものを選んでいただきたいところです。

なお、この手術は泌尿器科と婦人科のちょうど中間領域ですので、婦人科だけじゃなくて、泌尿器科の先生がなさることもけっこうあります。

産後に骨盤臓器脱の予防として、腟…ではなくて骨盤底筋群なんですが…を締める運動(キーゲル体操)などをお伝えしてはいますが、原因と結果が遠いので、なかなか毎日のトレーニングには定着しづらいのが難点です。