院長のバーチャル講義9 (子宮頸癌について)
いろいろ、病気の話をしてきましたけれど、今日は、子宮頸癌の話をしてみましょう。
子宮頸癌は、他の癌に比べても、その発生のメカニズムが早期に解明された癌の一種だと言われています。その理由は、わりと観察がしやすいから、ということもあったのでしょうけれど。
今では、ヒトパピローマウイルス(HPV)と呼ばれる、イボを形成したりするウイルスの一部が、子宮頸部の細胞に感染し続けることで、細胞の遺伝子に変化が発生して、癌が出現するらしい、ということがわりと細かく知られるようになりました。
そして、癌を引き起こすタイプのHPVに対するワクチンが開発されたのでした。
HPVの感染経路ははっきりわかっているわけではありませんが、性的に活動的な年代の女性の8割から9割の方が感染の経験があるらしいですので、わりとありふれたウイルスではあります。
子宮癌の前癌病変というのがありますが、この前癌病変については、ほとんど症状がありませんので、子宮癌検診による早期発見が重要になってきます。
イギリスでは子宮癌検診の受診率を頑張って向上させたそうですが、子宮癌検診の受診率が85%を超えると、その後、子宮頸癌について、いわゆる浸潤癌で発見される方が激減する、のだそうです。ちなみに日本の子宮癌検診の受診率は45%前後と言われています(別の報告では38%というものがありました。ずいぶんと低いです)ので、まだまだ、公衆衛生的な予防としては不十分なところが多い、ということになります。
子宮癌検診の結果で「ちょっとあやしいかもしれない」という結果が出た場合には、婦人科で、詳しい検査を行います。コルポスコープ検査と呼ばれますが、腟拡大鏡というものを用いて、子宮腟部を観察し、病変が一番進行していそうな場所を狙って一部組織を切除してくる、生検というのを行います。
癌検診は「細胞診」と呼ばれる、表面の細胞の顔つきを調べる検査ですが、精密検査は「組織診」と呼ばれる、細胞の並びが乱れていないかどうかを判定する検査になります。
妊娠初期に、産婦人科を受診されると、たいていの場合は、この細胞診を行いますが、妊娠中にけっこう進んだ癌の病変がある、ということが判明すると、本当に悩ましいことになります。妊娠を継続していると、癌の治療ができない場合もありますので、癌の治療を行うには、妊娠継続を諦めていただかなければならない場合もあります。
治療を、妊娠出産が終わるまで待つ、ということができる場合もありますが、本当にまれですけれど、お産の時の癌が、赤ちゃんに転移して、肺などで癌が発生することも報告されています。できるなら、あまりそういう悩みに直面しない形で妊娠出産を迎えていただきたいと思います。
ある程度進行した子宮頸癌の治療としては、子宮を、まわりの組織とあわせて大きく切除する手術を行ったり、あるいは放射線治療を行ったり、ということがされる場合が多いですが、加えて抗癌剤の治療を行うこともあります。
癌治療の三本柱として「手術」「放射線」「抗癌剤」というのがありますが、これらを適宜組み合わせた集学的治療が推奨されているところです。
また、手術としては、子宮をまるごと切除する術式が一般的でしたが、近年、子宮の頸部だけを切除し、子宮体部を温存する方法も採られるようになってきつつあります。術後に妊娠出産するのは、これも大変ではあるのですが、子宮の一部が残っていますので、「可能性がゼロではない」ということで、妊娠・分娩の報告もされるようになって来ています。
前癌病変ないし、上皮内癌の状態であれば、子宮頸部のごく一部を切除するだけで済む場合もありますので、これはやはり早期発見と早期治療があとの影響を考えても良いように思われます。なかなかそのタイミングで診断されないまま…という方がそれなりに多いのが現状ではあります。
ワクチンの接種が進んだ国では、この前癌病変の発生率も極端に低下してきている、という報告があります。日本もいずれはそうなって欲しいところではありますが、まだまだワクチン接種が遅れているのが現状です。
参考:
がん情報サービス 「子宮頸がん」https://ganjoho.jp/public/cancer/cervix_uteri/index.html
ヒトパピローマウイルス感染症~子宮頸がん(子宮けいがん)とHPVワクチン~ https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/index.html