雨の日の頭痛に五苓散

五苓散、という漢方処方があります。漢方の初学者でも「利水剤」といったらこれ!というくらいに有名な処方です。
構成生薬は「桂皮:けいひ・伏苓:ぶくりょう・猪苓:ちょれい・澤瀉:たくしゃ・蒼朮:そうじゅつ」となっています。
わりと応用範囲の広い処方ですので、広く用いられます。
この五苓散、たいていは「身体の中に水が余っている」ような時に使う処方なのですが、昔、薬理学の研究者がご自身の身体で「利尿薬」との比較を行う、人体実験をしました。
いわゆる「利尿薬」は身体の中に水が余っている時も、あるいは脱水気味の時も尿の量を増やす作用を発揮するのですが、五苓散は「利水薬」と呼ばれています。
身体の中に水が余っている時には、利尿薬のように尿の量を増やすのですが、脱水気味の時にはむしろ、利尿薬とは逆に、尿の量を減らして、おそらくは体内の水分をとどめておく作用があるのではないか、という結論が、薬理学の先生の身体を張った実験結果から示唆されています。
この五苓散、一部界隈では「二日酔い」に有効、としても知られています。酒毒…とはいいませんが、お酒を飲むとどうしても水が残りやすくなります。翌日の身体の重さが、水の停滞であるなら、利水することによって、改善するのでしょう。
昔の漢方の教科書には載っていなかった「新しい」使い方としては、「天気が悪い時の頭痛」に対して、近年、この五苓散が有効である、という知見が積み重なってきました。
雨の日の頭痛…といいますが、必ずしも雨じゃなくて、低気圧の場合、あるいは、湿度の場合、などに有効な様子です。
天気の変動によって体調の不良がでる状態を、最近「気象病」と呼ぶようになってきました。まだその機序が分かっていないことも多いのですが…。
分かっていない、というのは、引き金になっている気象現象が、ある方は「雨」、また別のある方は「湿気」あるいは、「気圧の変化」というように、それぞれ異なるようで、不調が出始めるタイミングも微妙にずれておられたりします。まとめて同じ病態、と言うのも、ちょっと難しいところがありそうです。
さらにいうなら、気圧の谷が近づいてくると症状が出る、という方が、じゃあ、飛行機に乗っている時、キャビンの気圧はかなり低くなっているのですが、そういう時に頭痛が出現するか?というと、そうでもなかったりします。
こういうときの、痛みの原因はいったいどこにあるのか?というのは、考え始めるとずいぶんと難しいような気がします。
とはいえ、この気象の変動によって出現する頭痛に、五苓散はわりと有効だったりします。一度試していただくのは良いだろうと思っています。
わたしの外来にいらっしゃる方は、天気が悪くなると頭痛がする、という時に、それでは、五苓散のような利水剤を試してみましょう、と申し上げて済む方だけではなく、「五苓散は試してみたのだけれど、効果が無い」という方も時々いらっしゃいます。
五苓散…ないし、他の利水剤で改善されるなら、それはそれでよいのですが、実際にお使いになられて、それでも、効果が得られないとなると、別のことを考えねばなりません。
ここ最近で、そのような方を何人か診せていただいたのですが、共通するように、みなさん頭の中がいっぱいで、ものすごく重たい状態になっておられました。
頭がいっぱいになると、どうして頭痛が出てくるのか?
頭がいっぱい、というのは、基本的には思考や記憶の問題のはずなのに、どうして物理的な現象としてそれが出現し、観察できるのか?
という疑問はまだ残るのですが、乱暴な仮説を立てると、こういうことではないか、と思っています。
1)記憶や思考で頭がいっぱいになると、なぜか、頭の中身がいっぱいになります。
機序はいまひとつ分かっていません。頭の外側から診て、どうして分かるのか、もちょっと今ひとつスッキリしませんが、それでも、やっぱりいっぱいになって、頭がかたくなります。
2)気象病の変動として、なんらかの天候の変化によって、頭のどこか外側みたいな場所が、むくむ
これも機序が今ひとつ分かりません。ただし、頭がいっぱいになっているところと別のところがむくむのではないか、と勝手に想像しています。
3)中身がいっぱいで、外側がむくむと、これらが「ギュッ」となる。そうすると頭痛がする。
だんだん説明がふんわりしすぎてきました。この程度が緩い場合は、利水剤を使うと、ギュッとなる程度が弱まるので、痛みが引く、ということなのかもしれません。逆に、中身がいっぱい、を超えて、その倍くらい中身が詰まっていると、外側がわずかにむくんだ途端に「ギュッ」となって、痛みが出現しますし、利水剤で多少むくみが引いたとしても、余裕が出来る程ではないので、痛みは引かない、ということなのかもしれません。
気象病ではありませんが、生理前には、むくみやすくなる方がけっこういらっしゃいます。生理前に片頭痛が出てきやすくなる方も、ひょっとするとこうした状態が起きやすいのが、頭痛の原因かもしれません。
頭の中身がいっぱい、を解消すれば、頭痛は起きにくくなるのではないか…と考えています。
じゃあ、その中身を整理して片付ける、とか頭を空っぽにする、というのをどうやって実現するのか…?というところなのですが…。
ひとつのご提案としては、明日の自分に申し送りを書いていただくことをお薦めしています。
あるいは、頭への施術調整で、なぜかこの「頭の中身」を整理できるようになってきた感じがありますので、お困りの方は一度お試し頂けたら、と思っています。