食べ物の影響と食養生
中国の伝統医学では、病気を治す医師よりも、食生活の指導をして、病気にならない生活を送るようにする、食医というのがあったのだそうで、通常の医師よりも高く評価されていた…?らしいです。
日本でもしばらく前に「薬膳」というものが少し流行になりました。「医食同源」という言葉を聞いたり、あるいは目にしたりされた方もいらっしゃると思いますが、食べたものの影響は、少なからずわたしたちの身体に出てきているのだ、と思います。
人類の歴史を見ると、本当に長い間、食に飽きるようなことはごくごく一部の富裕層に限られていて、多くのひとびとは、常に「足りない」ような状態が続いていたのだろうと思われます。いきおい、ヒトの身体は、必要な栄養分を頑張って摂取する方向に設定されました。
塩分や脂肪分、そして甘味を「美味しい」と感じるようになったのは、それらがヒトの身体にとって、必要であって、かつ、なかなか手に入らない「希少な栄養分」であったから、でしょう。
そして、人類は、外界に働きかけて環境を変化させることで、これらの栄養分を容易に入手できるようになりました。その上、文明が進歩したことや、動力の発明によって、自分たちがそれほど運動せずとも、生活が成り立つようになりました。
米国の一部では「カウチポテト族」と呼ばれる方々がいらっしゃるのだそうです。カウチ…ソファに座って、フライドポテトを食べ続けている人たち。娯楽は…その名称が始まった頃は、テレビだったのだろうと思います。
現代社会においては、カロリー的な栄養の不足は、だんぜん減りました。かつては貧困といえば、痩せているのが特徴でしたが、近年、貧困への食糧援助などが進んだことや、米・小麦などの炭水化物が潤沢に、安く供給されるようになったことなどの結果として、肥満(と、一部重要な栄養素の欠乏)が貧困での健康問題になりつつあります。
古い時代には、砂糖が薬として用いられていたこともあります。当時はカロリーの欠乏が多かったのでしょうから、とても有効な治療のひとつだったのだろうと考えられます。とは言っても、社会背景が変化した今、同じように「砂糖は薬」というように扱うわけにはいかないのだろうと思います。
そういえば、血糖値についても、「血糖値を上げるはたらき」をもったホルモンは4-5種類あります。成長ホルモンや副腎皮質ホルモン、甲状腺ホルモンなどもそれらの一種です。一方で、「血糖値を下げるはたらき」を持ったホルモンは、インスリンただひとつだけです。これも、血糖値は上がりすぎることが少なかった時代に作られたバランスなのだろうと思います。
どのような食事を摂ると長生きするのか、というような研究も時々されているようですが、これも個人の生育歴などによって異なることも多いようです。腸内細菌との関係や、食習慣というのも大きく個人差がありそうです。食事制限をすると、長寿遺伝子が賦活される、という研究もありましたが、なかなかひもじいくらいの食事制限らしく、あまり現実的ではないのかもしれません。
食養生、あるいは「食養」と言うと、「マクロビオティック」と呼ばれる理論と実践が有名です。これは桜沢如一(さくらざわゆきかず)という日本人が、フランスで始めた「長生きする食事」という言葉のようです。日本ではあまり定着しなかった(もともと日本食を大事にしましょう、的な主張が多くて、当時の日本では当たり前だったのかもしれません)のですが、弟子がフランスや、アメリカで指導を行った結果、欧米で流行し、日本に逆輸入されています。
これは砂糖や肉食を避け、穀物菜食を行うことを中心とした食事を推奨していますが、とくに米国の食生活から考えると、わりと効果的だったようです。日本人においては、もともとのタンパク質摂取量が少ないため、極端な穀物菜食はあまりお薦めではないことが多いようです。
最近は分子栄養学として、タンパク質や鉄をしっかり摂取しましょう、という提案も目にするようになりました。漢方の勉強会などでも一部で栄養の話が盛り上がっています。これらも食養生の一種と考えることができるのかもしれません。