その手を離せ
わたしが小さい頃、『まんが日本昔話』というテレビ番組がありました。
「ぼうや、良い子だねんねしな♪」と始まるオープニングで、アニメーションの本編は、お二人の声優がナレーションから、会話から全部やっておられたようです。

そんな話の中に「正直者天昇り」という作品があります。
天に昇りたい、という希望をもった年寄りを、がめつい隣人が、良いようにこき使ったあとで、長い梯子に登らせます。
そして、そのてっぺんで、手足を離せ…と指示するのです。
爺さんは、男の言うとおり、順々に手を離し、足を離して、とうとうにっこり笑ったまま梯子の天辺からゆっくりと落ちてきた。そのとたん大きな光の輪が現れ、爺さんはその光に包まれて望みどおり天に登って行った。そうして爺さんは、婆さんと並んできらきら輝く大きな星になった。
いったいどういうことなのか、そのまま正直者のおじいさんは、昇天するわけです。いや、梯子の上で、手足を離したら落っこちる、でしょう?
そんなところから落っこちたら死んでしまうわけですから…それで昇天?(ちがいます!)
なぜか、この物語を「その手を離せ」という形で覚え込んでいるのですが、それは、わたしが別のどこかで、この話に似たものを読んだからでしょうか?それとも…?
と、まあ、そんな話をここで引っ張ってきたのには、別の事情があります。
猿を捕まえる時に、壺に木の実を入れる、という方法があるのだそうです。
ちょうど、猿の手が入るくらいの大きさの口をした壺を、動かないように固定しておいて、その中に木の実を入れておきます。
猿は壺に手を入れて、木の実があることを知ると、それをつかみます。
ところが、木の実をつかんでいると、拳が大きくなりますから、そのままでは壺から手が出なくなるのです。
木の実から手を離せば、手は壺から抜けます…が、そうすると折角つかみ取った木の実を諦めねばなりません。
その葛藤をしている間に…人間がやってきて、猿を捕まえてしまう、という話です。
ブラジルのことわざに「賢い年老いた猿は壺に手を突っ込まない」というのがあります。
若くて経験の浅い猿は壺の中のナッツ全部を一度に掴かむので手が抜けなくなるのに対して、
経験のある猿は一つずつつまみだして食べるというわけで「経験者はヘマをしない」というたとえです。原文 Macaco velho não põe a mão em cumbuca
http://kampong.life.coocan.jp/Nov05/Part2/contents/monkeypot.html
わたしたちは、ひょっとすると、梯子の手すりだと思いながら、壺の中の木の実を握って、離せなくなっているのかも知れません。
先日、そんな話になって、ふと思うところがありましたので、ここに記しておきます。