クラスはよみがえる
アドラー心理学を日本に伝えた野田俊作氏は、単行本としての著作はあまり多くありませんでした。
今は『アドラー心理学を語る』という4冊のシリーズ本として改めて出版されましたが、それまでは「アドラー心理学トーキングセミナー」という形で、本編と、続編の2冊(これが4冊組に改版されて出版されています)、加えて、萩昌子氏との共著であった、この『クラスはよみがえる』の3冊くらいであったと思います。

その他にも、論文はずいぶんと数を書いておられたようですし、アドラー心理学の講座で用いる資料なども、氏がお書きになった分が多いでしょうから、決して仕事の少ない方ではなかったと思うのですが、一般人が外から見て、わかりやすい所、手の届くところには、本があまり無かった…というのが実状です。
この『クラスはよみがえる』ですが、初版は1989年(平成元年)となっていました。
当時は学級崩壊の時代だったりしたのかもしれません。ちょうどベビーブーム世代が小中学校に通っていた、そんな時代でした。
この中に、とても印象的な話が載っていましたので、少し引用します。
人間のもっとも根源的な欲求は『所属欲求』であると私たちは考えています。人間にとって、集団に所属する欲求は、生存の欲求よりも強いのです。だからこそ人間は、所属に完全に失敗したと感じると、自殺することがあるのです。人間行動の究極目標は、ですから、「集団の中に自分の居場所を確保すること」だと言うことができます。
(中略)そのような場で子どもたちが展開する作戦には、次の五つがあることが知られています。
- 賞賛を求める
- 注目を引く
- 権力闘争をしかける
- 復讐する
- 無能力を誇示する
子どもの問題行動は、結局はこれら五つの作戦のいずれかが展開されていることを示しています。
それぞれの作戦の詳細と、それに対してどのように考えて対処行動を選んでゆくかは、本文を読んで頂くとして、それぞれの作戦に、見出しとして、氏は多少の解説をつけてくれました。
- 賞賛を求める:いい子でいてほめられよう
- 注目を引く:なんとしてもめだとう
- 権力闘争をしかける:勝とう、すくなくとも負けないでいよう
- 復讐する:相手にできるだけダメージを与えよう
- 無能力を誇示する:見捨ててもらおう
良い子でいて、褒められることが可能であれば、この第一の作戦を選ぶわけです。いわば教室の優等生である、という方法です。
ところが、優等生であり続けることが難しい子どももかなりいます。優等生でいることが出来なくなったときに、次にとるのが、第二の作戦です。目立つことで、注目される、ということを選びはじめます。適切な行動ではあまり人目を引かなくなりますから、だんだん、不適切な行動が増える…というような形になりがちです。
こうした、教師(や、大人たち)からの注目を引く方法で、十分に自分に対する注意がはらわれている、と感じられなくなると、今度は、大人との権力闘争(第三の作戦)がはじまります。
とはいえ、争いになると、相手は大人ですから、なかなか、容易に勝てるものでもありません。少しずつ目標が後退すると、次は「復讐(第四の作戦)」という形に変化してゆくことだってあります。
第四の作戦までは、相手である教師や大人との関係性を、なんらかの形で保つものですが、こうした、闘争や復讐という関係性も切れてしまった状態が、第五の「見捨ててもらおう」というあり方です。こうなってくると、なかなかシンプルには解決が難しいことになります。
ところで、この「復讐」というのは、闘争とどう違うのか?というポイントですが、復讐のモードに入ったところからは、「自分自身が傷つくことについて、度外視する」という形になります。自分がひどく傷ついてでも、相手を傷つけたい、その場合の「損得」は計算しない、というのが復讐になります。
長々と、学級運営の話を持ち出してきたのですが、この「権力闘争」や「復讐」という発想を抱えたままで身体だけ大人になっているひと、けっこう居る感じがしませんか?
もちろん、学校を卒業していたら、すでに「担任の先生」は存在しないわけです。ですが、あちこちに「上下関係」みたいなものはあったりします。職場の上司・部下、だったり、あるいはプロジェクトのリーダー・メンバーだったり。そうした「機能的な」上下の関係は、たいへん便利な方便なわけです。ですが、これが仮のものである、とか、方便である、ということをうっかり忘れてしまうひとがいらっしゃると、ここに権力闘争を持ち込んだり、あるいは、復讐を持ち込んだりされることがあります。
わたしたちの心の動きは、わりと幼い時期に形作られたものが、そのまま残っていることもあります。
そうした幼い時期の「反抗心」みたいなものが、今の自分を振り回している…というのであれば、一度見直して、大人としての居場所、みたいなものを確認していただくのも、意外と良い作業になるのかもしれません。












