ビールの飲み比べ
わたしは、医学部に入る前、農学部に在籍していた時代がありました。農学部は農学部で面白い話がいっぱいあったのでした。
かつての農芸化学が改組されて、食品工学とか、そういう話を熱心にやっている時代でした。
結局、わたしはその後の進学振り分けで、農芸化学とか、バイオテクノロジーの方向には進まず、林産工学系のコースに進んだのですが、それまで、いろいろと学部の講義で、食品科学などの話を聞いたことを覚えています。
その中に、食品のうま味についての研究をされていた先生だったと思いますが、「伏木亨」という教授が当時、いらっしゃいました。
学生を被験者にして研究をやっておられたのだそうですが、そのひとつが「ビールの飲み放題」。
もう、呑兵衛な学生が殺到した、という話を聞きました。大手メーカーの3ブランドを、それぞれ、銘柄を隠して飲んでもらう、と、明らかにその中の1つのビールが減るのが早い、というような研究でした。その後、新書か何かで出版されていたように記憶しています。
「ヒトを被験者にする研究なので、同意書がいろいろと必要だったのだけれど、もう、学生が『そんなのは良いから、早く!』という感じで圧がすごかった」みたいなことをおっしゃっていました。
そんな研究の中で「ビールを飲むと、なぜ飲み会後にラーメンが食べたくなるのか」という話も出てきたように記憶しています。
これは、塩分との関係があるようで、アルコールを含んだ飲料は、ほとんどのものが、ナトリウムの血中濃度を下げる…つまり、塩辛いものが欲しくなるのだとか。
世界の中には、そうじゃないビールが稀にある、みたいな話を聞いたように覚えています(そのビールなら、いくらでも飲めそうですねえ…)。
ところで。
その研究の時に、ビールの消費量をはかるため、グラスに注ぐビールを、目盛り付きの容器で仮置きしていたそうです。まあ、ピッチャーみたいなものです。
農学部ですから、実験器具がたくさんあります。
実験器具はきっちり洗浄しておかないと、実験結果に異常がでますから、それはもう、きれいに洗うわけです。そんじょそこらのご家庭の食器よりもきれいなはずです。
…が、そのきれいに洗った「ビーカー」に、ビールを入れておいて、それをグラスに注いでいたのです。

(ビーカーのイメージ画像。こんな感じだったのでしょう…サイズはちょっとわかりませんが…。)たしかに「実験」ですし…。
そしたら、そのビーカーを見た学生さんが「これを見ると、飲む気が失せる」とぼやいたのだとか。
場合によっては滅菌したりして使いますので、細菌の汚染や異物の混入という点では、断然「きれい」な器具ですから、清潔さという意味では何の問題もないハズです。しかし、やっぱりビーカー、という形が、食欲を減退させてしまっていたようです。
「ヒトが食事をする、っていうのは、単純に味覚だけの話じゃなくて、かなりの部分、思考が優先されているのだなあ」というような話を、伏木先生がなさっていたのを覚えています。
ところで。
ビールを提供するようなお店で、ビールのおつまみになるような料理、となると、けっこう塩辛いものが多いです。そりゃ、塩辛いものを食べてもらって、のどが渇いたところで、ビールをどんどん飲んでもらうと、売り上げが増えそうですので、間違いありません。
先日、ちょっとした事情で、そんなビヤホールみたいなところで食事をすることがありました。そこまでのどが渇いた感じもしないまま、食事だけ済ませて帰ってきたのですが、家に帰ってから、すごくのどが渇いて、渇いて。

こんな感じの食事…たしかに塩分多いかもしれませんねえ…。
あー。今日の食事は塩分が多かったんだなあ…とその時になって思いました。
塩味が強いと美味しく感じやすいのですが、一方で、やっぱり塩分が多めになると、むくみの原因になりやすいわけです。その理由として「味の濃いものを食べるとのどが渇く」というのがあるのだろうかしら…と(今さらながらに)気づいたところでした。