健康教室「むくみと漢方」

先日、2025年12月の健康教室を開催いたしました。「むくみと漢方」というお題でお話をしました。

むくみ、ってわりと気安く口にしていますが、じゃあ、そもそも、むくみ、って、いったいなんです?って訊かれて、大真面目に答えようとしたら、言葉に詰まってしまいます。

むくみ 【〈浮腫〉】

むくむこと。また,むくんだもの。ふしゅ。「足に―がくる」「―がとれる」

…いや、むくみを「むくむこと」ではわからんよねえ。もうちょっと、なんというか。ねえ。と思ったら、Wikipediaさんは、もうちょっと上手に書いてくれてました。

浮腫

浮腫(ふしゅ)とは、顔や手足などの末端が体内の水分により痛みを伴わない形で腫れる症候。むくみともいう。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%AE%E8%85%AB

人の身体は、血液の循環によって、心臓から送り出された血液が末梢の毛細血管にたどり着き、組織に酸素や栄養を供給したあと、それが今度は徐々に集まって、静脈という形になって心臓に戻ってくる…という流れというか、循環があるのですが、末梢の毛細血管あたりで少し、組織に水が残りやすい、というバランスに作ってあるのだそうです。
で、少し余った水を、今度はリンパ管の流れで回収してくるのだとか。

病的なむくみ、が出てくる有名なものとしては、心不全とか、ネフローゼ症候群、などが有名です。

心不全では、心臓への往還が不調になってむくみが発生します。なので、心不全の時には(場合によって)利尿薬を用いて、水を体外に出す、ということも行われたりします。
ネフローゼでは血液の中のタンパク質が減ることで、血管の中に水を引き込む力(膠質浸透圧)が弱くなることで、むくみが出ます。
その他にも、妊娠高血圧症候群(かつての妊娠中毒症)でもけっこうむくみの症状が出てくることがありました。妊娠高血圧症候群の早期発見は、周産期死亡率の低下にも重要な要素ですので、妊婦健診では、むくみのチェックを必ずするようになっています。

また、わたしが仕事をしていた婦人科の領域では、子宮癌の手術でリンパ節を取ると、術後にリンパの流れが悪くなって、リンパ浮腫、と呼ばれる病態が発生することもありました。これを防ぐためには、弾性ストッキング(すごく締め付ける、とてもキツいストッキング)を着用してもらう、などの方法や、あるいはリンパマッサージなどの手法を用いる、などとされています。

また、一般的には、炎症が起こると、浮腫に加えて、発熱や発赤が見られます。この炎症の時には、末梢血管の透過性が亢進して、血液の液体成分が組織にこぼれやすくなっているのが浮腫の原因と言えます。

そんな浮腫ですが、漢方的には「水毒」と呼ばれる病態に分類されます。

漢方の病理では、身体を巡っているものは「気・血・水」の3要素しかありません。このうち、気の病理は「気虚」「気鬱」「気逆」が、血の病理は「血虚」「血瘀」がありますが、水の病理は「水毒」しかない、とされています。水の足りない「水虚」とでもいうような病態も実はあって、「津液虚損」と呼ばれるのですが、これは湿気の多い日本では、あまり見られなかった病態であったようで、水といえば、水の動きがわるくなって、滞っている、ということが多かったようです。

こうした、水が溜まっていて、しかもうまいこと動かない、という病態に対して、漢方では「利水剤」という処方を用いることがあります。代表的な処方としては「五苓散(ごれいさん)」が挙げられます。これは頭がむくむような頭痛にも用いますし、あるいは耳がむくむようなめまいにも使われます。

水分が体内に余っている時には、これを体外に排出して尿量が増える作用がありますが、脱水気味になっている時に五苓散を内服すると、むしろ尿量はやや減少する傾向があります。なので、「利尿」ではなく「利水」と言われるわけです。

最近は、この五苓散の効果に、細胞膜にある水を運ぶチャンネルが関与している、ということがわかってきています。その名も「アクアポリン」。これが発現すると、細胞の内外に水を動かしやすくなるようです。

漢方では、水を動かす臓器としては、心、腎、そして脾が挙げられています。もちろん、肺も多少は効果があるのですが、量的な比較をすると、やはり、腎と脾が大きくなります。腎を補う処方としては「八味地黄丸(はちみじおうがん)」などが有名で、これは夜間頻尿などにも用いられますが、腎由来のむくみに用いることもあります。

脾による利水は、白朮や蒼朮を用いることが多いようです。この白朮と蒼朮はいずれも「オケラ」という植物の根っこで、近縁種から得られた生薬です。古くは「朮」としか指定がなかったりしますので、どちらを使っていたのか、考えねばなりません。蒼朮の方が利水作用が強く、白朮の方が脾気虚に有効、とされていますが、全体の中では、近縁種だけあって、厳密な区別と差別化は難しかったりするそうです。

生活としては、塩分や糖分が多い食生活では、身体の中に水をため込みやすくなりますので、なるべく薄味の食事を心がけていただきたいところです。