効く・効かない・効いた・効いてない

「プラセボ効果」っていう表現が、臨床で、時々使われます。

たとえば「これは頭痛に効く薬です」と言って渡されたものが、たんなるラムネ玉だったとしても、「これが効く」と思って内服することで、ある程度痛みが軽減するのだ、ということが知られています。

世の中には「鰯の頭も信心から」というものもありますので、もともと、こうした「信じるものは救われる」的な話は伝わっていたのだろうと思います。

こういうところで「本来なら効果が無いはずなんだけれど、ひとの思い込みで、効果があるように見られる現象」のことを「プラセボ効果」と呼びます。

一部には、こうしたイメージを用いて、実際の身体へ影響を及ぼす手法があります。たとえば「サイモントン療法」と呼ばれる方法は、がんと診断された患者さんの心の状態が、病状に影響するとして、様々な働きかけをしています。

サイモントン療法とは | <公式Official>NPO法人サイモントン療法協会

サイモントン療法のご案内 概要 サイモントン療法は、米国の放射線腫瘍医で心理社会腫瘍医であるカール・サイモントン博士 ( O. CARL SIMONTON, M.D.)により開発された、…

(NPO法人サイモントン療法協会)

じゃあ、ラムネ玉を「薬である」と、いわば嘘をついて、投与した場合に、プラセボ効果で症状が消えた、なんていうことが起こったとき、これは「薬(ラムネ玉)が効いた」と言っても良いのでしょうか?

これはとても難しい話になりそうです。

なので、だいたいは、本当に効果の判定をしたい薬、と、ラムネ玉…みたいな「偽薬」とを、それぞれ投与することで、効果判定を行い、統計的な差が出た場合には、プラセボ効果以上に「効いた」という判断をするわけです。

これが「対照試験」と呼ばれる方法です。

ただし、投与したり、あるいは効果を判定したりする担当者が「これは偽薬」というのを知っていると、それが伝わることで、プラセボ効果が弱まる、とか、あるいは、効果判定が厳しくなる、なんていうことがあると、ここで差が出てきますから、今は「投与する側も、誰に本当の薬が行き渡っているかがわからない」という状態を作ります。これが「二重盲検」と呼ばれる方法になります。

ところで先日、「もう半分、まだ半分」という記事を書きました。

もう半分、まだ半分

一般向けに書かれた、心理学関連の本には、ちょっとした小咄みたいな話があったりします。そういう小咄のひとつで、悲観主義者と楽観主義者の違い、というものがありまし…

症状が半分残った時に、これを「効果があった」と判断するのか、「半分も症状が残っている…こんなの効いたとは言えない」と判断するのか、というあたりでも、これは議論が残りそうです。

もちろん、統計的に評価するときには、何を評価の対象として、どのくらいの差が出ているのか、ということをはっきりさせます。

が、では「差がはっきり出る効果があった」ということと、実際に使ったひとが「効果があった」と実感するかどうか、ということとはまた別の問題だったりする、こともあります。

折しも、今年は日本国内でインフルエンザが大流行していて、抗ウイルス薬が品薄になっているようです。

これに対してはいろいろな言説が可能で、「昔はインフルエンザの薬なんて無かったのだから」という形でおっしゃる方もあるでしょうし、「そもそもインフルエンザの薬を飲んだからといって、せいぜい良くなるまでの期間が1日短くなる程度の話だ」とおっしゃる方もあります。

インフルエンザの薬を飲むと、平均して1日くらい、熱が引くのが早くなる、というのを「それはさほど変わりない」と思うひともあれば、「その一日がとても大きい」と感じるひともあるでしょう。

新しい抗がん剤がずいぶんと増えましたが、これらの効果、というものも、「癌が(多少)小さくなった」あるいは「生存期間が延びた」というところで評価されることが多いのですが、実際にどのくらい生存期間が延びたのか?というと、平均して、およそ1ヶ月くらい、というのが実状です。もっとよく効いて、もっと長く生きられるような、あるいは、癌が消えてなくなるような、そんな薬があれば本当に良いのだけれどなあ…と思いますが、なかなか難しいようです。

これを、ざっくりと「そんなの効いたって言わないんじゃないか」って思う方もあるかも知れませんが、その1ヶ月が大事な方もやっぱりいらっしゃいます。

もっと身近な薬の話をすると、血圧を下げる薬とか、コレステロール(の値)を下げる薬、というのは、実際の数字として血圧をはかったり、あるいは採血の検査をしたりすると、たしかに下がった、と言えるのですが、その測定なしに生活している場合は、生活実感として「ほとんど変わりない」ということもあります。こうした、効果が実感されづらい薬は、なかなか、診療の継続が難しい場合もあって、悩ましいところです。

数年前に、遠隔ヒーリングで「育毛する」という方がいらっしゃって、話のタネに、と妻の後押しがあり、受けたことがあります。
ヒーリングの後ですこし産毛がはえてきた…ようにみうけられましたので、「効果があった」のかもしれません(厳密に写真を撮って評価したわけではありませんので、まったくもって「個人の感想」です)。

が、妻はわたしの頭をみて「変わらないね」と言っています。さすがに「完全な砂漠」が「ジャングル」に生まれ変わるわけではなくて、「砂漠に多少、草がはえる」くらいに留まっていました。

「効く」ことへの期待が高すぎると、結果を見て「この程度か…」と失望する、のかもしれません。

これを「効いた」と呼ぶのかどうか、っていうのは個人差がありそうです。
(もちろん、続けている間に、目に見えるほどに変化してくる、ということもあるのかも知れません…わたしはお試しコースだけで中断しましたので)

薬とか、ワクチン、あるいはいろいろな治療について「効くの?効かないの?」という話題はあちこちで出てくるのですが、じつは、結構面倒くさい話だったりするのだよなあ…って思います。