医療とわいせつ行為

しばらく、このことについて、ブログで書こうか、どうしようか、と逡巡していたのでした。

今回の話題、わたしにとっての発端は、2026年1月30日の新聞報道でした。

女性患者にわいせつ行為、皮膚科クリニックで…医師を逮捕、体を触った疑い 恐怖の45分間「体調改善のため波動療法を」 女性が警察に相談し発覚、何人も被害か 医師「触ったが検査だった」

「あいクリニック」というのを探したところ、Ai Oriental Clinic というところのウェブサイトが出てきました。
こちらの先生「オーソモレキュラー」という栄養療法を中心にした診療をなさっているのだそうです。

ちなみに、オーソモレキュラーは、いわゆる保険診療に収載されていません。なので、自費診療に寄っている形の診療スタイルなのだろうなぁ…と思います。

Webサイトには、こんな文章が並んでいました。

「一般的な保険治療でなかなか改善しない方」
「治療しているのに、だんだん症状が悪くなってくるような方」
「原因がわからない、治療法がないと言われた方」
「できれば薬を減らしたい、止めたい」「疾患を根本から治したい」
「なんとなく不調」
「疲れがとれないと感じることが多い」
以上ようなの症状は、もしかしたら栄養不足が原因かもしれません。まずはお気軽にご相談ください。

https://aioriental.jp/

なんだか当院のWebサイトに載せているような…。いわゆる、現代医学で対処しづらい体調とか症状に焦点をあてると、どうしても文章が似てくる、ということなのでしょうかしら?

この先生が、どのような思いで、患者さんに触れておられたのか、また、それを受けて、苦痛を訴えられた方がどのような思いだったのか、というあたりは、新聞報道以外の情報がありませんので、まったく想像の域を出ませんし、勝手に想像しても詮無いことです。

世の中に医師の数は大変多いですけれど、ほとんどの医師は、わいせつな意図を持たずに診療をしている、とわたしは考えています。
とはいえ、報道ではしばしば、医師のわいせつ行為が喧伝されます。件数は、医師全体から考えたら、ごくごくわずか、ではありますが、どうしても報道が重なると、そればかりが目について、多いように感じる(認知バイアスがかかる)のかもしれません。

ところで。

当院では、脈診や腹部の触診、そして背部の触診を含めて、患者さんの体調を確認するために、あちこちに触れます。
たとえば、腰痛がある方には、腰にも触れますが、場合によっては、お腹をおさえたり、あるいは太ももの付け根あたりをおさえたりすることがあります。

わたしが健康診断のアルバイトに行っていた時。ちょっと脈を…と、少し衣服の袖口から手を差し込む形で脈に触れたら、「不要な行為をされた」という顧客意見が届いたことがありました。うーん…脈をみない先生の方が多いですからねえ…。
健康診断の医師も、報道でときどき、盗撮とか、わいせつ、みたいな話が流れてきます。

難しい話だなあ…と思うわけです。

そもそも。

と、昔、講義をしていたときには、看護学生さんたちに話をしたことがあります。

特に婦人科領域では、「はじめまして」に続く言葉が、「(早速ですけれど)下着脱いで、足拡げてくださいね」って言葉になる場合があるわけです。
婦人科の診療の中ではそれがあまりにも当たり前になっています。が、医療という文脈を取り除いて、いったいどこで、こんなつながりの会話が起こるのか、ということを考えると、医療の現場というのは、かなり特殊な空間である、と言えるわけです。
もちろん、婦人科の診察では、医師と患者さんとが二人きりにならないように、かならず看護師さんなり、どなたかが同席するような形で運用しています。

医療というのは、そのように、ひとの身体に触れることがある、という部分で、プライバシーに踏み込むわけです。
だからこそ、わたしたち医療者は、極力、誤解をまねくような行為を避けねばなりません。

李下に冠を正さず。瓜田に履を納れず。

そういう姿勢を維持せねばなりません。
とはいえ。昨今は身体的なプライバシー権利にとても厳しい方もいらっしゃいます。
医療における、検査や診察の正確性を求める部分としては、きっちり目視する、とか、じかに触れる、ということも大事にせねばならないところですが、プライバシーに対する配慮も求められます。

健康診断の現場では、直接皮膚に聴診器をあてねばならない、というルールが厳守される場合もあります。
胸部と背面の聴診をそれぞれせねばならない、という項目もあったりしました。
それらを拒絶したい、という方があることも実態としては承知していますし、どの辺で折り合いをつけるのか、というのは難しいところです。

そういえば、『手の倫理』という本だったと思います。介護をお仕事にされている方が、恋人の服を脱がしかけたときに、介護の仕事モードのスイッチが入ってしまって…というエピソードが収載されていました。
文脈によって、ぜんぜん異なる行為なわけですが、似たような動作が重なったことで、ぜんぜん違った文脈に意識が迷い込んでしまったようになったのだろうと思います。

人の身体に触れる仕事、というのは、そのようなことが起こりうるのだ、という話は、常に心しておきたいところです。