気・血・水とその異常について

漢方の理論にはいろいろなものがあります。

先日少し書いた「五臓論」っていうのは、五行論と呼ばれる思索的な理屈が背景にあるそうですし、いわゆる陰陽の話は「易経」の思想が背景にあるものと考えられます。
そのような漢方の中に「気・血・水」3つの要素を用いて物事を説明する理論が打ち立てられました。吉益南涯(よしますなんがい、1750--1813)が提唱したのだそうで、日本発、です。その後、中国にも逆輸入された結果、あちらの中医学理論では、「気・血・津液」という3つの要素を採用しています。

は「はたらきをもちつつ、物質的な背景が無いもの」です。陰陽で言うと「陽」です。

気の異常は3つあります。

ひとつめの異常は「気虚(ききょ)」と呼びます。これは本来働くはずの気が足りないことで起こる不調です。
全身の気虚だと、本当に身体がしんどい、動けない、などということになります。治療としては、気を補う、ということが必要になりますが、人間の気は主に「水穀の気」と言って、胃腸から吸収された物質をエネルギーに変換して巡らすことになりますので、これを補うためには、胃腸の調子を整えることが必要になることが多いです。

ふたつめの異常は「気鬱(きうつ)」と呼びます。これは、気の巡りが滞ったことによって発生する不調です。
気分がすぐれない、とかなんだか引っかかる、なんていうことが症状としては出てきます。
治療としては、気を巡らせる、ということになるのですが、たとえばシソや、ミカンの皮、あるいは柑橘類の実など、良い香りのする生薬が用いられることが多いです。

みっつめの異常は「気逆(きぎゃく)」と呼びます。本来の気は、身体を巡る方向があるのですが、その巡りの方向と逆に気が巡る、という状態だとされています。
多くは、本来の流れとしては上から下に流れる気が、下がっていかずに、あたまに気が上がり過ぎているような状態を引き起こします。
治療としては、気の流れを「下げる」ような生薬を用いることが多いように思われます。たとえば竜骨(哺乳類の化石を砕いた生薬)とか牡蛎(カキの殻を砕いた生薬)といった鉱物に近い「重たい」ものを用いて、気を下ろす、落ち着けていく、ということを行います。

とは、「身体の中を巡る赤い液体」ということになっています。おおよそ、西洋医学で言う「血液」と似ているのですが、もうちょっと幅広い概念のようです。陰陽では陰に属します。

血の異常は2つ挙げられています。

ひとつめの異常は「血虚(けっきょ)」と呼ばれます。血が消耗して足りない状態をいいます。これはなんらかの消耗するような病態で、血が失われてしまった場合と、それから、寝不足や食生活の乱れなどで、血を作ることが追いつかない場合、があります。治療は消耗を防ぎつつ、しっかり血を作っていく、ということになりますが、補血薬の中には、胃腸に負担がかかるものもありますので、胃腸虚弱の場合は注意が必要だったりします。

ふたつめの異常は「瘀血(おけつ)」と呼ばれます。(*やまいだれに「於」の字を使います)血の巡りが悪くなっている状態を言います。久病(病態が長期化した状態)には、かならず瘀血の病態が出現する、とも言われており、二次病理の一部を担っています。なお、中医学では「血瘀(けつお)」という言葉も使うことがあります。
状況にもよりますが、便秘も瘀血の病態のひとつとして考えられることがあります。
治療は駆瘀血薬を用いることになります。

水、とは、「身体の中を巡る、赤くない液体」ということになっています。脂肪なども、巡るかどうかはひとまずとして、一応、「水」の分類に入っているということになっています。これも陰陽では陰に属します。

水の異常は1つだけ。「水毒(すいどく)」と呼ばれます。水が本来あるべきではないところに貯留することで、様々な不調が起こることを言います。症状としてはむくみ、などが典型的な水毒ですが、あたまがむくむと、たとえば、めまいが出現したりすることもあります。
治療は利水薬を用います。

本当は、水については、水が足りない「水虚」とでも呼ぶような病態もあるはず、なのですが、日本は湿度が高い国でしたので、あまりそういう病態になることはなかったのでしょうか…あるいはそれも含めて水毒としたのかもしれませんが、わりとざっくりした分類になってしまっています。

中医学では「津液虚損」という形で「水」の足りない状態のことを呼んだりします。また、「陰虚」という表現をよく使います。これは「水」だけではなくて、「血」と「水」の両方が足りない状態、を言います。