漢方薬の量のはなし

飲み薬について、医師は「処方箋」を書きます。
この「処方箋」には、わりと不思議なルールがいくつかあります。
たとえば、1日3回、1回1錠、という飲み方をするときは、「3錠分3」って書く、というのがルールになっています。
英語の処方箋だと(x3)とかっていう書き方をしていることがあるのですが、このx3の前が、「一日量」なのか「一回量」なのか、っていうあたりで、いつも緊張します。
ちなみに、患者さんの手許に届くときの表現には、薬袋などに注意書きがあるのですが、この「分3」という書き方は完全に消えていて、「1回についてどのくらい、1日何回」という表現になっています。

もともと、漢方薬というのは、土瓶や鍋で煮出すのが普通だった時代があります。その時代の本には、「一日の量の分を、一回で煮出しておいて、それを三回(あるいは二回)にわけて飲む」というような書き方がしてあります。液体ですから、分け方は自由自在になりますし、一日に何回も湯をわかして煮出すよりは、まとめて済ませられる方が楽、ということにもなるのだろうと思います。
そんな名残でしょうか。今でも「分3」とか「分2」とかっていう書き方をしています。

漢方製剤の添付文書には「通常、成人1日7.5gを2〜3回に分割し、食前または食間に経口投与する」と書いてあったりします。

ところで、最近の漢方薬エキス製剤は、だいたい、1回分が個包装されているものが使われています。昔は500gの顆粒がそのままビンに入っていた「ボトル包装」というのがありましたが、これは吸湿するので、管理が大変です。また、いちいち、個包装しなおさねばなりません。

じゃあ…となるのですが、この「1日7.5gを…」というのの個包装なんですが、どういう形になっているか?というと、たいてい、一袋「2.5g」なんです。
なので、「1日2〜3回に分割」って書いてあるのですが、2回に分割するのは、けっこう面倒くさい。
一方で、学校に通っていたり、仕事に出ていたりすると、出先でお昼間にこれを内服する、というのも面倒くさい、という話があります。

悩ましいところです。

ちなみに、漢方薬エキス製剤は複数のメーカーがつくっていますので、メーカーによって、また、方剤によって、少しずつ量が違います。

昨日も少し書きましたが、有名な「大建中湯(だいけんちゅうとう)」という処方は、方剤のエキス製剤に「膠飴(こうい)」という飴の成分を加えてあります。
飴が含まれているので甘いのですが、この飴成分が全体の3分の2を占めていて、とある大手メーカーだと、成人の1日量が15g(=6包)という計算になっています。
さすがに飴の部分をフリーズドライしても、飴ですから、ねえ。(厳密には飴成分を含まないエキスをつくってあって、その粉末と飴の粉末を混ぜた製剤にしてあります)

また、エキスの量が多くなるものだと、1包3g…1日9gが常用量、という方剤もあります。

ところで、別のメーカーは、エキス方剤の粉末量を減らすことを頑張りました。もちろん、それぞれの方剤によるのですが、少ない粉末量のものだと、1日量が6gが常用量、という方剤をつくっています。しかも、このメーカー、分3の包装と、それから、分2の包装をそれぞれつくって販売しているのです。

漢方薬を処方すると、だいたい、食間あるいは食前、という形で指示するのですが、お昼の分の薬を内服してもらうのが手間になる方が多くいらっしゃいます。職場や学校に持って行くとか、昼食休憩以外のタイミングで内服するとかが煩雑だったりすると、内服しそびれる事が増加します。なので、わたしはこの分2包装を便利に使っています。とはいえ、時々量の調節をしたくなることがあって…となると、少し減らしてみたり、と分3包装を使ってみたり…といったりきたりしているわけです。

ところで。薬局からすると、漢方薬というのは、場所を圧迫します。もともと全医薬品の2%程度の売り上げ規模しかありませんが、かさばるので、場所をとるわけです。そして、種類が多い。分2包装と分3包装と、それも各社…という形で置いてくださる薬局もそうありません。勢い、大手メーカーのひと種類だけ置いてあります、というところが多くなります。
そうすると、別のメーカーの処方で処方箋を持ち込んだ時には、「ウチにはその処方は置いてありません」という話になります。

うーん。どうしたら良いんでしょうねえ。薬局に在庫を抱えていただくのも大変なのですが。

メーカーによって、同じ名前の処方であっても、微妙に中身が異なることもあります。そういう違いを気にして処方している時もありますが、一番は分2と分3の違いでしょうか。

疑義照会、という形で確認していただくと、ああ、この方にはわたしが当初意図していた方剤じゃないものが届いているのだなあ、ということを認識できるので、まだ良いのですが、場合によって、患者さんが「いや、先生、同じデザインでしたから、もらっていたのはこちらのメーカーのものです」という形で報告していただくことで、はじめて気づく、ということもあります。

1日量6gの方剤を、分2で出している時に、1日量7.5gの同名の方剤の、3分の2量(5g)を分2で交付されている、ということが、時々発生している、ということに最近気づきました。

メーカーによって、1袋のグラム数が微妙に異なりますから、3gの代わりに、2.5gのこちらを、それぞれ1袋ずつ、という考えになるのだろうと思います。

でもなあ…って悩みます。

「一日量」と「一日量の3分の2」だと、だいぶ違う気がするんですよねえ…。
もちろん、「一日量の3分の2」でよく効いて、元気になっておられる方もありますから、そういう使い方もアリ、なんだろうと思うのですが…。
まして、メーカーが違うのを黙ってそのまま交付されていると、わたしが知らないところでそれが進む、ということもあります。

このあたり、とっても難しいなあ、と思うのですが、当院はかなり弱小な人数で運営していますので、院内処方にして、患者さんにわたすクスリを全部管理する…という手間をかけることができません。在庫のリスクなども、全部薬局にお任せすることになっていますので、あまり強く言う話でもない…となると、ため息がでる、というところです。

いっそのこと、全部バラにしてもらって、分2の包装をしなおしてもらう、とか、微妙な量の加減をする、とかすれば、それぞれ対応してくださるのかも知れませんが…これまた、吸湿による品質変化の問題とか、手間の問題が出てきます。

どうにか、うまいことやって行きたいところではあるのですが…。