睡眠障害…あるいは不眠症のこと

健康診断の仕事をいろいろお引き受けしていると、けっこう「眠れない」っておっしゃる方がいらっしゃいます。

眠れない、っていうのを、ざっと、「睡眠障害」とか「不眠症」って言うのですが、実は睡眠障害にもいくつかのパターンがある、とされています。

ひとつは寝付きが悪い、というやつ。寝ようと思うのに目がさえてしまって、眠れない、なんていうことがしばしばあったりします。「入眠障害」と呼ばれるパターンです。

眠りが浅い、というのもあります。途中で何度も目が覚める、というのは、「中途覚醒」と呼ばれる睡眠障害とされています。これは、場合によってはいわゆる夜間頻尿との関係があったり、なかったりします。トイレに目が覚める、とおっしゃる方の中には、本当に尿量が多い夜間多尿の方もいらっしゃれば、眠りが浅くて、ふと目が覚めるので、トイレに立っておられる、という方もあります。夜間の多尿は、これはこれで、泌尿器科などで相談していただく内容になります。

その他、朝早くに目が覚めてしまう「早朝覚醒」というのもあります。日本人の生活スタイルがそもそも就寝時刻が遅くて、しかも通勤に時間がかかることもありますので、ここで寝坊すると遅刻してしまう、というプレッシャーもあるのかもしれません。

先日ちょっとお話をさせていただいた方は、「そもそも通勤の時間が長くて、自宅の滞在時間が7時間ちょっとしかない」とおっしゃっていました。

高校生についての研究だそうですが、「通学時間が1時間以上かかるとうつ症状の出現リスクが1.6倍になる」という報告を出した日本の研究者がいます。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/pcn.13714

必ずしも通学時間だけではなくて、睡眠時間が短い(本文は読めないのですが、読んだ方によると、調査対象の高校生のうち、約半数が6時間未満の睡眠時間である、と報告されているそうです)と、うつ症状のリスクはそもそも高くなりますから、通学時間が長いということは睡眠時間にも影響は出そうですけれど。

睡眠障害のパターンとしては、もう一つ「熟眠障害」というのがあります。これはそれなりの時間眠っているはずなのに、眠りが浅くて、熟睡した感じが得られない、という場合のことを言うそうです。

寝不足が続くと、注意力が低下するなどの影響もありますが、それだけではなくて、食欲が亢進して、肥満になりやすい、とか、血圧が上昇しやすい、などの影響もあります。睡眠時間と死亡率の関係を調査した方がありますが、平均7時間の睡眠がもっとも死亡率が下がるのだそうで、8時間を超えて睡眠をとっておられる方は、それはそれで死亡率が上昇する、という報告になっています。

今は、6時間睡眠が1週間続くと、だいたい睡眠負債がまるまる一晩分くらいになっていて、いわゆる徹夜明けと同じくらいの寝不足状態である、と言われています。休日に寝だめ、というのはなかなか難しいのですけれど、睡眠負債の解消をするにも、だいぶ時間がかかりそうだったりします。休日が一日まるまる眠ることで過ぎてしまった…という方もいらっしゃいますが、睡眠負債が大きいと、それでもまだまだ足りない、ということもありそうです。

では、その睡眠をどうやって「寝付きやすく」「しっかり熟睡して」「希望の時間に起きる」ことができるようにするか、ってことになるのですが…。なかなか難しいところです。

睡眠薬をお使いになったところ、今までの寝不足も影響して、翌日気づいたら夕方だった、という方もいらっしゃいました。仕事を無断欠勤したことになってしまっておられましたので、「もう二度と睡眠薬は使いたくない」とおっしゃっていたのが印象的です。

もちろん、漢方薬の中には頭の緊張をゆるめて、寝付きやすくする処方もありますので、その方にあわせて、処方を組み合わせることになります。が、漢方薬だけではなくて、日々のカフェインの摂取を控えていただくとか、あるいは悩みごとを整理していただく、というご自身の「セルフケア」が重要な部分を占めているのも、事実です。

特に更年期は不眠症が出現しやすくなる時期と言われていますが、ここで心配事や考え事が多いと、本当に頭が熱くなって、寝付きにくくなります。上手に頭の中を整理していただきたいものです。