院長のバーチャル講義6(子宮内膜症について)

子宮内膜症っていう病気は、本来なら子宮の内側に位置しているはずの「子宮内膜」というものに極めて似た組織が、子宮の内側じゃないところにできている、というのがその病態です。

こういうのを「異所性」と呼びますが、じゃあ、そんなほんらいの場所じゃない場所に、どうして子宮内膜みたいな組織ができるのか?って話には、いろいろ説があります。

有力な説はまあ、あまり多くなくて、一つは「もともと間違った組織がその場所にできてきた」という「化生説」。もう一つは「子宮内膜の細胞が月経の時には腹腔内に流出するのだけれど、その一部が定着した」という「月経血逆流説」です。月経血じたいが逆流するのは、たまたま月経のタイミングで腹腔鏡手術などを行った時に観察されたりしていますので、間違いではないのですが、じゃあ、どうして腹膜なんかで、ある種の異物であるはずの子宮内膜組織が定着するのか、っていうのは、今ひとつわかっていません。

まれではありますが、月経のタイミングで気胸を繰り返す方があって、月経随伴気胸という病態で知られていますが、これは肺の一部に異所性の子宮内膜組織があって、そこが出血すると同時に破綻するからだ、とされています。月経血の逆流で、肺までたどり着くことってあるんでしょうか?って思いますが、これも、まあ、それなりにあり得る、っていうことになっているようです。

子宮内膜症の病巣が出現しやすい場所としては、ダグラス窩(あるいは子宮直腸窩)がよく知られていますが、ここに内膜症の病変が発生すると、月経時に直腸への刺激が発生し、下痢をしやすくなったりすることもあります。

また、月経にあわせて出血をしては止血・修復を繰り返しますので、腹腔内で癒着が強くなり、不妊症の原因になったりします。

場合によっては、卵巣に内膜症の病変が発生すると、卵巣嚢腫を形成することがあります。これは、内容物が月経血になりますので、長年経過するとどろっとしたチョコレートのような見た目になることが多く、「チョコレート嚢胞」などと呼ばれます。これは、さらに長期間経過していくと、癌化することが報告されていますので、定期的に超音波エコーなどで確認しておく必要があるとされています。

治療としては、手術療法も場合によっては検討されますが、根治が難しいため、どうしても複数回の手術になる可能性が高いことから、ひとまずは保存的に、OC/LEP製剤を用いるか、あるいはプロゲスチン製剤を用いて、病巣の増殖を抑制する方法がとられることが多いです。

場合によっては、GnRHアナログを用いた偽閉経療法を行うことがありますが、これは、骨粗鬆症やその他の更年期障害を引き起こす可能性があるため、6ヶ月を上限として、次の治療まで6ヶ月あけることが推奨されています。

対症療法としては、鎮痛剤を用いることになりますが、場合によっては漢方薬がそれなりに有効なこともあります。機能性月経困難症と言われている方の中にも、しばらく経過をみているうちに子宮内膜症が認められるようになる方もありますので、早期からのケアが必要なのかもしれません。