漢方の診察法
漢方の診察には「四診」と呼ばれるものがあります。
これは「望診・聞診・問診・切診」の四つの診察法をまとめた言い方です。
・望診(ぼうしん):目で診ることです。
・聞診(ぶんしん):耳で聞くだけではなく匂いを嗅ぐことも含まれます。現在は声の調子を聞くなどの聴覚情報をつかった診察になっています。
・問診(もんしん):お話を伺うことで症状の有無やどういうときにその症状が強くなるか、あるいは改善するか、などをお尋ねするところです。
・切診(せっしん):触れることを言います。いわゆる触診です。脈を診る脈診・腹を診る腹診が有名です。
受診される方のおっしゃるお困りごとをお聞きしながら、身体の状態を拝見し、それらを総合的にまとめて判断することを「四診合参(ししんがっさん)」と言います。それぞれの診察については、お困りごとの状況により優先順位が変化することもあります。
身体のどの部分の不調によって、このような状況を引き起こすきっかけになっている可能性が高いのか、というようなお話をいたします。その上で、こうした身体の変調に対して漢方薬を処方し、この処方がどのような変化を期待できるかということをお伝えします。
古来より「心身一如(しんしんいちにょ)」という言葉があります。心と体はひとつのものであり、心に何かの困りごとがあれば体にそれが現れる。逆に、体になにか違和感が続いていれば、心にも憂いが出てくるというものです。状況により、どちらから整理するのが早いかは異なりますが、診療の中でこれをお伝えしつつ、整理していくことをお手伝いいたします。
いわゆる五十肩…のようなもの
それなりの年齢になると、腕を上げようとすると、肩が痛むとか、あるいは腕があがらなくなったとか、後ろ手に回すのが辛いとか、そういうトラブルが出てきたりします。 ちょうど50歳前後によく見られることから「五十肩」と一般には言われています。早い方だと40歳前後で発症して「四十肩」と呼ばれることもあります。
本当に肩が動かなくなった場合は「肩関節周囲炎」あるいは「凍結肩」と呼ばれ、整形外科で関節注射やその他の治療が必要になります。 場合によっては、腱板(けんばん)が一部で切れている「腱板断裂」が起こっている場合もあります。
それらの診断と治療は、整形外科の範囲です。一度はちゃんと受診していただいて、そういう重度の病態ではないことを確認していただくことをお薦めいたします。
そのずいぶん手前…なのか、本当は別の病態…なのか、はわかりませんが、肩が動かしづらい、腕があがらなくなってきた、という「(五十肩の)入口」の方に共通して、「小円筋(しょうえんきん)」とか「棘下筋(きょくかきん)」と呼ばれるような、肩甲骨中央から肩の方向につながっている筋肉のコリを認めるようです。
ここをもみほぐすと、痛みが強く出る場合が多いのですが、その後、腕の可動範囲が広がるという方を沢山診て参りました。 ご自分で揉んでいただくには、ちょっと手が届きづらい場所ではありますが、ツボ押し棒やマッサージ器、あるいは机の角、ボールなどを工夫して使っていただくことで、症状が解消するように見受けられますので、そのようにお伝えしております。
わかりづらい場所ではありますので、具体的に場所をお伝えするには、直接触れて確認していただくことがいちばん早いと思います。
当クリニックでは、こうした局所のマッサージの指導に加えて、鍼やお灸を用いたり、漢方薬を内服していただいたりすることで、「(いわゆる)五十肩」にも対応しております。 お困りの方がありましたら一度お声かけくださいませ。
院長(にしむら)の「いわゆる五十肩」の診療は、じつは医師のキャリアよりも長い、という話でブログに書いております。
また、肩こりの一部もこの「いわゆる五十肩」と同じ根っこの不調であるようです。
しびれ
診療をしていると「しびれがある」という方もしばしばお目にかかることがあります。 しびれに対する西洋医学的な対処方法は、そんなに多くないこともあり、「(西洋)薬をもらっているけれど今ひとつ変わった感じがしない」とか「漢方薬ももらっていたけれどピンとこなかった」とか、なかなか症状の改善につながらないことも多いようです。
痛みを伴うようなしびれには、近年プレガバリン(リリカⓇ)という薬が使えるようになり、ずいぶんとそれ以前よりも患者さんが楽になられた様子になりました。しかし、はっきりした痛みを伴うしびれとは異なり、しびれ感だけがあるという場合にはこの薬が有効であるとも言いづらいようです。
しびれと一言で言っていますが、お話を伺った状況でそれらを細かく分けてみると、感覚が鈍くなっているような、直接触れているにもかかわらず、布1枚挟んだような遠い感じがするという状況(強いていうなら麻痺に近い)である方もあれば、「正座して、その後に足を伸ばしたときのようなピリピリする感じ」をおっしゃる方もあったり、あるいは何かものがさわるとびっくりするような「知覚過敏」と呼ばれるような状況をしびれとおっしゃる方があったりします。
まずはしびれの種類と、その出現する範囲を確認することから始めます。
微細な観察が必要になりますが、しびれている部分はとてもかすかですが、皮膚の状態が、しびれていない部分とは異なることがあります。これを確認することで、しびれが発生している部位を確認し、しびれを引き起こしている原因の場所を探す手がかりにいたします。
しびれの原因や種類によっては(脊椎による神経圧迫や椎間板ヘルニアなど)なかなか症状の改善を望めないような、難しいものもあります。
しかし私が診察した方の中には、こうした改善が難しい状況でのしびれに加えて、肘や手首などで筋肉が緊張しているために神経圧迫が起こって、しびれ症状が増強しているという方がしばしばいらっしゃいます。そういう方の場合は、筋肉の緊張を解消することで、しびれ症状が多少なりとも改善されることもあります。
あわせて一部の漢方処方では、神経の働きを改善するとか、しびれの発生を防ぐという報告があるものもあります。 こうした診療を組み合わせることでしびれの症状が改善する場合がありますので一度ご相談くださいませ。
しびれについてのブログ記事がこちらです。
皮膚のトラブル
アトピー性皮膚炎とか、じんましんなどというような皮膚に症状のある方の診療をすることがあります。
一般的には、皮膚の炎症があると、かゆみが出てきますので、どうしてもかきむしりたくなります。皮膚を掻くと、皮膚のバリアが壊れますので、刺激にまけやすくなって、炎症を引き起こしやすくなる、という悪循環が、皮膚の湿疹を治りにくくしているのだ、と言われます。これを抑えるために、いったんかゆみ止めとか炎症止めの薬を使う、というのは、とても理にかなった治療方針だと思います。
漢方では、その他に、ご自身の体質的な部分から発生する「熱」を冷ます、という治療方針をとることができます。
いわゆる「清熱剤」と呼ばれる分類の処方ですが、現状の皮膚の治療に加えていただくことで、体調の改善が早まることも期待できるかもしれません。
また、「熱」の発生によっては不眠などとも関係が深くなってくることもあります。
あわせて相談していただけたら、と存じます。
慢性の蕁麻疹や、アトピー性皮膚炎などの一部に、こういう「熱」がこもる、ということがあるようです。
熱の話については以前ブログに記載しました。
呼吸が浅い
にしむら漢方内科クリニック、こんなことも漢方や施術で改善するのか…というものがあったりします。
深呼吸がしづらい、などという方も、改善の余地がある場合があります(肺炎や気管支喘息のような「肺そのものの病変」に対処できるわけではありませんので、それは呼吸器内科の先生としっかりご相談くださいますようお願いいたします)。
呼吸がうまくいかない感じがある、とか、なんだか深呼吸しても、息が吸えていないような気がする、という方もけっこういらっしゃいます。あるいは、ご本人には自覚があまり無かったとしても、鳩尾の緊張が強い方の場合、腹式の呼吸がうまくいかずに、胸郭式の呼吸になっておられる方があります。
呼吸補助筋は、腕の稼働にも用いられることがありますから、五十肩や、あるいは巻き肩がある場合も、これが解消すると、呼吸が多少なり、楽になった、という経験をしていただける場合がありますが、やはり、一番は鳩尾の緊張を解消すること、だと思われます。
特に鳩尾付近に打鍼を用いた方法で、この緊張を取ると、呼吸が深まり、楽になることを実感していただけることがあります。
加えて、漢方薬を併用することで、息が楽になる、ということがありますので、お困りの方はご相談くださいませ。
便通の問題がある
便秘や下痢、というのも、結構お困りの方がいらっしゃる症状だと存じます。
便秘については、特に女性の場合、生理前の時期にはどうしても腸の動きが悪くなりがちで、便秘になる、という方もありますし、子宮内膜症がある場合には、生理のタイミングで、腸が刺激され、下痢になる、という方もいらっしゃいます。
排便は、出産と同じような機序があるのですが、ストレスや緊張がある場合には、どうしても上手くいかないことがあります。
一般的に、食事の後に、便に行きたくなる「排便反射」というのがあります。毎食後に、多少なり反射が発生するのですが、一番強いのは朝食後、と言われています。つまり、朝食後に排便、というのが生物の構造としては、もっとも「合理的」なのですが、昨今の世の中、朝食を食べたら、すぐに出勤しなければならない方もいらっしゃいます。仕事に行く、というある種の緊張があると、それだけで排便の反射が消えてしまうことも、しばしばあります。
漢方薬には、様々な便通を改善させる処方があります。これはもともと、漢方の治療の、一番古いところに「吐くか、下すか」ということが主体になっていたから、ではないかと考えられるのですが、便通の状況によって、処方の内容が異なります。
また、便が緩い、とか、下痢をする、という方には、またそれはそれで、対処の処方があることもございます。
これは漢方…とも少し異なるのですが、汗をかいて、そのまま冷えると、「汗が内攻する」というように考えます。この「内攻」した汗は、同じところからは出られないので、別の出口を求めます。肺であれば、喘息気味になることがありますし、お腹であれば、下痢、という形になりがちです。なので、くれぐれも、汗をかいたあとは、しっかりと「拭き取る」あるいは「着替える」という対処をして頂きたいところです。
便秘と下痢を繰り返す、などというような疾患もございますので、一度しっかりと消化器科でのご相談が必要かと存じますが、漢方でも症状が解消する、そんな場合もございます。一度ご相談いただけたら、と考えております。
排尿のトラブル
男性も女性も、年齢が上がってくると、排尿関係のトラブルが増えてくることがあります。
頻尿や、尿もれ、あるいは、残尿感なども、いわゆる排尿のトラブル、ということになりますが、なかなか、ご相談する先が無い、とお悩みの方も多い様子です。
もちろん、泌尿器科の先生にご相談いただくのが一番確実ではあるのですが、漢方薬には、尿トラブルに対する処方もいくつかございます。
お悩みの内容によっては、生活への差し障りも出ていらっしゃる方もあったりする、とお聞きしています。全てがスッキリ解決できる、とはなかなか申し上げられませんが、一度お試し頂いたら、多少は改善することもあるかと存じますので、お声かけくださいませ。